こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、中国を舞台にした壮大な歴史絵巻「蒼穹の昴」シリーズ第4作。
浅田次郎「マンチュリアン・リポート」殺すなら俺を殺せ!英雄の夢が潰えた日です。
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■「殺すなら俺を殺せ!」
この本を紹介するには、このシーンを取り上げないわけにはいきません…。
立ちこめる黒煙の中で、李春雷は巨躯をわななかせて泣き叫んだ。
「救人啊!誰か、救けてくれ」
「救命啊!快快一点児!救けてくれ、早く、早く、総攬把が死んじまう、誰か救けてくれ!」
そしてしまいには、グレート・マーシャルのぐったりした体をわが子の亡骸のようにかき抱いて、李春雷は天を見上げた。
「殺すなら俺を殺せ!」
そう叫んだなり、李春雷は慟哭した。髯面に血の涙をほとばしらせて。
このシリーズを読んでいる人は、ここに記された人物が分かりますよね…。
「李春雷」とは、このシリーズの主役・李春雲(愛称:春児(チュンル))の兄。
そして、「総攬把」あるいは「グレート・マーシャル」と呼ばれているのは、張作霖。
春雷の敬愛する馬賊の頭目にして、満州の支配者。長城を超え北京紫禁城に入り、中華平定まであと一歩のところまで迫りました。
前作「中原の虹」で、民の平安を求めて東北の王者へ。混迷極まる清朝末期において、希望の「虹」として中華を駆けた張作霖。
本作「マンチュリアン・リポート」は、その英雄の死から物語が始まります。
■あらすじ
収監中の陸軍中尉・志津邦陽(しづくにあき)のもとに、昭和天皇から密命がくだります。
張作霖が何者かの手によって爆殺された、満州の重大事件の事実調査をせよ…。
密命を受けて中国に渡った志津は、関係者を訪ね歩きます。
日本公使館付駐在武官・吉永将、大元帥府書記・岡圭、謎の中国人・王嘉平、関東軍中尉・古賀駿一…。
やがて、明らかになっていく、張作霖爆殺事件の時系列とその背景…。
事件の闇は、志津の想像をはるかに超えて、深く黒く、暗澹たるものでした…。
志津が天皇に宛てて綴る「満洲報告書」(マンチュリアン・リポート)に記される事件の真相。
なぜ張作霖は死ななければならなかったのか。中華の希望・張作霖を殺したのは誰か…。
■マンチュリアン・リポート
史実にも残る「張作霖爆殺事件」。
昭和3年(1928年)6月4日早朝、中国の奉天に向かう特別列車が何者かによって爆破され、乗車していた張作霖が命を落としました。
太平洋戦争終結まで事件の全容が公表されず、日本政府内では「満州某重大事件」と呼ばれ闇に葬られていた事件。
本作「マンチュリアン・リポート」は、主人公・志津邦陽(しづくにあき)の現地調査を通じて、その真相を解き明かします。
章ごとに、事件に関与した人物から事実が明かされていくプロセスは、浅田次郎さん得意のストーリーテリング。
「壬生義士伝」や「珍妃の井戸」などでも採られているスタイルですね。
本書では、その過程が、志津が綴る「満洲報告書」(マンチュリアン・リポート)という私信の形で記されていきます。
志津が現地で聞き取りを行う人物は、日本公使館付駐在武官・吉永将、大元帥府書記・岡圭、謎の中国人・王嘉平、関東軍中尉・古賀駿一…。
吉永将は、前作「中原の虹」で重要な役割を担った人物。張作霖と共に爆破事件に遭い、片足を失っています。
岡圭は、「蒼穹の昴」から登場している、正義感あふれる元新聞記者。本作でも真相解明のために、志津に協力します。
さらに物語の終盤、このシリーズのファンにはたまらない、あの人物が登場します。
李春雲、愛称は春児(チュンル)。前の大総管太監、今は亡き西太后の側近…。このとき54歳になっていました。
彼の登場によって、秘められた封印が解かれるように、事件の闇が明らかになっていきます。
物語はクライマックスへ。「民の平安」をただただ追い求めた張作霖。彼はなぜ命を奪われたのか。民の希望を殺したのは誰か…。
李春雷の流した血の涙。胸が張り裂けるような悲しみと怒り。
誰もが、その思いに共感し、同じく慟哭するはず…。それは、李春雷のみならず、希望の虹を失った庶民たちの涙。そして、私たち日本人への涙の警鐘でもありました…。
今日の夢中は、「蒼穹の昴」シリーズ第4作。浅田次郎「マンチュリアン・リポート」殺すなら俺を殺せ!英雄の夢が潰えた日でした。
ありがとう、浅田次郎さん! ありがとう、「マンチュリアン・リポート」!