伊東潤「修羅の都」頼朝はなぜ死んだのか?"空白の3年"の謎を解く

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館長のふゆきです。

今日の夢中は、伊東潤「修羅の都」頼朝はなぜ死んだのか?"空白の3年"の謎を解く…。
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■あらすじ

ついに悲願の平家討伐を遂げた源頼朝
さらに彼は、義経や範頼ら一族を排斥し、自身の地位を盤石なものとしました。

すべては、「武士の世を創る」という夢を実現するため…。
それは頼朝が目指す武家社会であると同時に、彼を流人時代から支えた北条政子も願う新しい社会でした。


(源頼朝と北条政子/蛭ヶ島公園)

怜悧にして巧妙な政治手腕を発揮して、朝廷をも圧倒する武士の府を鎌倉に築いた頼朝。
しかし、その晩年…。頼朝は公家社会の巻き返しを許し、やがて鎌倉幕府は崩壊の危機を迎えます。

なぜ鎌倉幕府は無為無策になったのか。その柱石である頼朝の身に何が起こったのか…。
「吾妻鏡」の空白部分の謎に迫る歴史長編。頼朝と政子の運命は?頼朝の死の真相とは?

■修羅の都

なんともチャレンジングな鎌倉草創の物語に出会いました。
それが今日とり上げる、伊東潤さんの小説「修羅の都」です。


修羅の都

新聞で約1年間連載していたものを加筆改稿、2018年に単行本にした作品。
なにがチャレンジングかと言うと、物語のメインで描かれる時代が、源頼朝の晩年期であること。

第1章からして、頼朝のところに「平家討滅」が成ったとの書状が届く場面から始まります。
源平合戦は一切描かれません…。壇ノ浦も一ノ谷も、平家追討の挙兵も無し。白熱の合戦シーンはまったくありません。

その後に描かれていくのは、義経や範頼ら兄弟との相克…。と言っても、頼朝が一方的に誅殺したようなものですが…。
さらには、征夷大将軍になって以降の、朝廷との虚々実々の心理戦が繰り広げられていく様が描かれます。

古今東西、源頼朝に焦点を当てた物語は数多くあれど、その晩年が描かれるものはほとんどありません。
それは、鎌倉幕府が編纂した歴史書「吾妻鏡」に頼朝の晩年の記録が記されていないことに起因します。


吾妻鏡(6)

「吾妻鏡」には、なぜか頼朝の死の前後3年間の記述が抜けているのです。
空白の3年とも称される頼朝の晩年期に何が起こったのか。そして頼朝はなぜ死んだのか

鎌倉時代最大の謎とされるこの問いに、伊東潤さんが果敢に挑みます。
修羅の都・鎌倉に一体何が起きたのか…。
(以下、ネタバレあります。ご留意ください。)

■晩年の頼朝

その変化は少しずつやって来ました。義経や範義ら一族を誅殺した頼朝…。
止まるところを知らぬ疑惑の矛先は、苦難のときから共にしてきた妻政子にも向けられました。

「まさかそなたは、わしの死後、小四郎(北条義時)に実権を預けようと思っておるのではないな」。
頼朝が義時の姉である政子に疑念を向けると、北条一族を「根絶やしにしてやる」と恫喝して立ち去ります。

源氏嫡流の血に対する頼朝の妄執…。それは、頼朝の疑り深い性格によるものか、老いによるものなのか…。
晩年の大姫入内をはじめとした朝廷工作は、「武士の府をつくる」という理念を忘れ、自らの血脈に固執しているかのようでした。


(源頼朝像/源氏山公園)

どうした、頼朝?北条義時も大江広元も、そして妻政子までも、その変容に驚き、恐れおののきます。
しかし、頼朝の変容はそれだけではありませんでした。頼朝は、次第に鋭利な頭脳が失われ、それどころか物忘れがひどく縁者の名すら思い出せなくなります。

そう、頼朝の「老い」が、深刻な問題を生じさせたのです。物語の後半、その象徴的な場面が描かれます。
決死の覚悟で頼朝に諫言する畠山重忠に、ぶち切れる頼朝。頼朝は太刀を抜きますが、それを止めようと妻政子が間に入ります。
政子「佐殿、何をやっているのです。太刀をお収めください!」。頼朝「そなたは誰だ」

衝撃的なシーンです。晩年の頼朝をおそう「老耄」(ろうもう)。
健忘症か認知症か…。これ、偉い人がなると厄介ですよね。諫めようにも止まらない。それどころか癇癪を起して諫めた者は遠ざけられます
腹心の北条義時は出仕停止を命じられ、先の畠山重忠は斬られそうになりました。しかも、そのとき頼朝は重忠を義経と見間違っています。


鎌倉殿の13人(後編)

頼朝の「老耄」は、政治の停滞と奸賊の台頭をもたらし、せっかく築いた武士の府「鎌倉」の土台が崩れていきます
見透かしたように、朝廷は親鎌倉の公家らを粛清、反鎌倉の体制を整えます。幕府内でも、君側の奸が蠢き、北条氏ら有力御家人を排除する動きが顕在化していきます。

どうなる鎌倉?どうした頼朝?どうする政子…。
追い詰められた北条一族は、ある決断をします。果たして、その決断とは?
「吾妻鑑」の空白の3年を紐解く歴史ミステリーともいえる作品。頼朝ファンにもアンチ頼朝の皆さんにもおススメの一冊です。

今日の夢中は、伊東潤さんの歴史小説「修羅の都」でした。
頼朝に何が起きたのか。そして頼朝はなぜ死んだのか。その答えは「修羅の都」…その頁のなかにあります…。

ありがとう、「修羅の都」! ありがとう、伊東潤さん!

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