こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、松岡圭祐さんのミステリー小説「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」です。
■あらすじ
シャーロック・ホームズ死す…。
そのニュースは帝都ロンドンを、いや英国中を震撼させました。
しかし、実はホームズは生きていました。
宿敵モリアーティ教授と格闘の末、何とか一命をとり止めたホームズ。しかし、その一味から命を狙われます。
そこで彼は欧州を離れて、しばらく身を潜めることにします。
ホームズが向かったのは、日本でした。
潜伏先は、明治日本の重鎮・伊藤博文の邸。2人は若き伊藤が渡英した時に会っていたのです。
やがて日本を揺るがす事件が発生します。
来日したロシアの皇太子が日本人の巡査に切りつけられる事件が発生。
両国が一触即発となる事態の中、ホームズが調査に乗り出します。
果たして、ホームズと伊藤博文は事件の真相を解明することができるのか。
そして、ホームズは本国に無事帰国することができるのか。
■ホームズ最後の事件
かの名探偵ホームズと日本の初代総理大臣・伊藤博文が旧知の仲だった…。
なんて奇想天外な話しなんだろうと思いましたが、実はそうでもありませんでした。
ホームズとモリアーティ教授との戦いについては、作者アーサー・コナン・ドイル作「最後の事件」に記されています。
このときドイルは、ホームズがモリアーティと一緒に滝壺に落ちて命を落とすという結末を描きました。
悲嘆に暮れる読者と編集者は、ホームズの新作を強く求め続けます。
はじめは頑なに拒否していたドイルですが、そうした声に後押しされて、「空き家の冒険」でホームズを生還させるのです。
そこでホームズは、自身が死亡していたとされていた期間(1891~1894年)について、チベットなど東洋に行っていたと説明しています。
だとすれば、当時英国と関係の良好だった日本に渡ってたとしてもおかしくはありません…。
しかも同じく「空き家の冒険」で、ホームズはモリアーティとの対決の際、「バリツ」という日本の格闘技を用いたおかげで助かったとワトソンに説明しています。
だとすれば、ホームズが日本と何らかの関わりがあったというプロットも、決して奇想天外なものではありません。
■大津事件
本家ドイルのストーリーテリングに負けじと、本作の作者・松岡圭祐さんは自由に発想を拡げます。
世界的にも著名な探偵ホームズは、日本で然るべき人物に庇護されただろう…。その人物は、初代内閣総理大臣の伊藤博文。
さらに松岡さんは、歴史上の出来事とホームズの年代記を見事に組み合わせます。
博文は1863年から64年にかけて、実際に渡英しています。このとき博文は22歳。ホームズは10歳。
ここで両雄は歴史的な出会いを果たすのです。ホームズが、後に「バリツ」と称する日本の柔術を目にするのもこのときです。
この辺りの設定は見事としか言いようがありません。さすが松岡さん、うまく考えたよなぁ…。
突拍子もないように見えて、本家ホームズ作品の「最後の事件」から「空き家の冒険」までを見事につなげました。
さらに、ホームズが来日していたとする時期に起きた実際の事件を題材にとり上げます。
それが、1891年に起きた「大津事件」。来日したロシアのニコライ皇太子を巡査・津田三蔵が切りつけた一大事件です。
この事件を契機に、日本の植民地化を狙うロシア。国家の危難に立ち向かう伊藤博文。
そこに、名探偵ホームズが真相の解明に身を乗り出します。
明快な謎解きと、巧妙に張り巡らされた伏線…。さらに随所にちりばめられた過去作品へのリスペクト。
ホームズの仕草やセリフまで、まるでドイルがペンを走らせているよう…。松岡さん、どんだけホームズ作品を読み込んだの?
「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」。突拍子もないと侮ると痛い目に遭います。
松岡圭祐さんから全世界のミステリー・ファンに贈る、極上のホームズ・トリビュート作品です。
ありがとう、「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」! ありがとう。松岡圭祐さん!