こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、2人の登場人物と2つのクライマックス…羽州ぼろ鳶組「菩薩花」(ぼさつばな)です。
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■羽州ぼろ鳶組
江戸の火消たちを主人公にした時代小説「羽州ぼろ鳶組」シリーズ。
その1作目「火喰鳥」を読んでから、すっかりこのシリーズの虜になっています。
「火消」に焦点を当てた斬新なストーリー展開はもちろん、一癖も二癖もある登場人物たちの躍動ぶりがこの作品の魅力。
なかでも、主人公・松永源吾は最高です。「火喰鳥」の異名をとる火消しの腕は一級品。くわえて悪を憎み弱者をいたわる正義漢。
その言動に何度心を奪われたことか。個人的には理想の上司ナンバーワンです。
そんな理想の上司ぶりに磨きがかかるシリーズ5作目が届きました。それがこちら、羽州ぼろ鳶組シリーズ5作目「菩薩花」(ぼさつばな)です。
今回、源吾の前に現れるのは、火難の遺児を救い育て「菩薩」と崇められる定火消・進藤内記。
八重洲河岸定火消の頭取を務める進藤ですが、彼にはある秘密がありました…。それでは、まずはあらすじから。
■あらすじ
「番付…か」。
源吾が訝しむのは、無謀なやり方で他の火消から手柄を奪おうとするやり口。
火消番付は江戸の庶民の関心の的。お家の評判にも繋がるとあって、諸藩も着目しています。
新しい番付の噂が人々の口に上りだす頃、「大物食い」をしてまでも手柄を立てようと奮闘するのが仁正寺藩火消・柊与市でした。
同じ頃、火消による付け火を疑う物書き・文五郎が行方不明になります。
すると、文五郎の息子・福助にも謎の追手が差し向けられます。
うごめく「悪」の影を見た源吾は真相究明に乗り出します。
そんな彼らの前に現れたのは、火事で親を失った子供を救い火消に育て上げ、「菩薩」と崇められる定火消・進藤内記でした。
他家の消し口を奪ってでも功名をうかがう柊。あくまで冷静沈着に火事場を差配していく進藤。
そして謎の解明に奔走する源吾は、真相を明らかにするために仰天の大勝負をしかけますが…。
■2つのクライマックス
「羽州ぼろ鳶組」第5作は、ミステリー仕立てになっています。
火消による付け火と思しき不審火が相次ぐ中、物書き・文五郎が失踪。
源吾は、星十郎らぼろ鳶組の面々と謎の解決に乗り出しますが、相手はなかなか老獪。
これまで難事件を解決してきた星十郎が「尻尾を掴めません…」と音を上げるほど、手掛かりが少ない。
物語の鍵を握るのは、2人の新しい登場人物。
一人は柊与一。若くして仁正寺藩火消を率いる天武無闘流の達人。
いま一人は進藤内記。「菩薩」と称される八重洲河岸定火消の頭領。
終盤、この2人がぶつかる場面が物語のクライマックス。もちろん、そこに源吾が絡まないわけがありません。
巧妙に覆い隠された真実を、強引にこじ開けようとする源吾。圧倒的不利、絶体絶命の連続…。
決死の謎解きを進めていったその先に、巨大な闇・強大な敵が姿をあらわします。
果たして源吾らぼろ鳶組は、真実にたどり着くことができるのか?そして、真の「悪」を打ち倒すことができるのか…。
相変わらず、源吾の情熱に圧倒されっぱなし。本作で「理想の上司」度がますます上昇しました。
加えて、源吾の異なる一面をうかがい知ることができるのも本作の楽しみの一つ。
本作で、いよいよ妻・深雪が出産を迎えますが、そこに至る源吾はなんとも…。
深雪が体調を崩すと、源吾は心配で「呆けた猿のように居間をくるくる回っていた」。こんなところも、情に厚い人間・源吾の魅力なんでしょうね。
そして迎える出産。はじめて源吾がわが子と対面する場面…。
実は、この場面が本作品のもう一つのクライマックスです。源吾と深雪、そして子供とのやり取りは…。
思わずじんと来ちゃいました…。ここはぜひ本書の頁をめくって読んでみてください。
源吾が「理想の上司」だけでなく「理想の父親」の座をつかむ日も遠くないでしょう。
ありがとう、源吾! ありがとう、ぼろ鳶組!