「国宝(上)青春篇」!青春のすべてを歌舞伎に捧げた若者たちの数奇な運命

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館長のふゆきです。

今日の夢中は、「国宝(上)青春篇」!青春のすべてを歌舞伎に捧げた若者たちの数奇な運命…です。
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■あらすじ

1964年、長崎。任侠の一門に生まれた立花喜久雄は、輝くような美貌と天賦の「芸」才を持っていました。
しかし、その「芸」を披露した正月の宴席で、敵対勢力により父が暗殺…。彼の平穏な日常は一変します。

身寄りを失った喜久雄を引き取ったのは、長崎を訪れていた上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎でした。
長崎から大阪へ…運命に導かれるように、花井家の部屋子となる喜久雄。そこには、半二郎の跡取り息子であり、同い年の花井俊介がいました。

極道の血を引く「よそ者」の喜久雄と、名門の重圧を背負う「サラブレッド」の俊介。対照的な境遇の二人は、奇妙な友情で結ばれながら、芸の道へと踏み出します。
厳しい修行、梨園のしがらみ、そして恋愛…。青春のすべてを、彼らは歌舞伎の舞台で、そして華やかな衣装の裏側で燃やし尽くしていきます。

果たして、背中に彫り物のある喜久雄は、家柄や慣習に厳しい歌舞伎界で成功をつかむことができるのか。
そして、名門の血を継ぐ俊介は、真の歌舞伎役者になることができるのか。幾重もの信頼と裏切り、数多の成功と挫折の果てに、2人が辿り着く運命とは…。

■読みどころ

すばらしい小説に出会いました。吉田修一さんの渾身の筆致が光る「国宝」です。
歌舞伎という伝統芸能の深淵に挑んだこの作品は、単なる「芸道もの」の枠を大きく超えた、圧倒的な熱量を持つ大河ロマンです。

上下2巻からなる大作、今回はその上巻「青春篇」のなかから、特に胸に刺さった場面を紹介しましょう。
「あらすじ」に記載のとおり、主人公・喜久雄が不幸な出来事をきっかけに、上方歌舞伎の名門・花井家に入ることから、物語は大きく動き出します。
(以下、ネタバレを含みます。ご留意ください。)

国宝(上)青春篇

花井家の跡取り・俊介と、部屋子となった喜久雄。はじめは一触即発の2人でしたが、共に厳しい修行を積んでいくうちに、固い友情が育まれていきます。
その2人が、興行主から見込まれて、京都の南座という大舞台の主役に抜擢されます。そこで「二人道成寺」を演じることになる場面が最初の読みどころ。

緊張する2人の楽屋に当主・半二郎が現れ、その背中を叩いて言います。

「俊ぼん、アンタは生まれたときから役者の子や。他の子らと野球するのも我慢して稽古してきたはずや。何があっても、ちゃんとアンタの血ぃが守ってくれる。そいで喜久雄。アンタ、うちに来て何年や。5年になるやろ。そのあいだ、1日でも稽古休んだことがあるか?ないはずや。この「道成寺」かて、誰よりも稽古してきたんやろ。せやったら、なんの心配もいらん。アンタが舞台で振り忘れても、アンタの体が勝手に踊ってくれるはずや」

2人のことをよく知る師匠だからこその、2人それぞれへの力強いエール…。「血」と「芸」。実は、これが後の2人を呪縛することになるのですが…。

ただ、それは先の話し。このとき2人は固い友情で結ばれています。舞台に登場する場面も微笑ましい

「俊ぼん、ちょっとデコ出しぃ」
「はあ?なんやのん、こんなときに」
「ええから」
喜久雄から強引に顔を掴まれ、
「化粧、落ちるわ」
と、嫌がるそのおデコに、「パチン」とデコピンでございます。

この後に、喜久雄が顔を突き出し、俊介からデコピンをくらいます。このデコピンが効いたのかもしれません。
南座での「二人道成寺」は予想以上の大成功を収め、一躍2人は歌舞伎界の寵児に。若き女形コンビとして、「スタア誕生」となったのです。

■読みどころ(続)

その2人の関係を大きく変えることになった出来事が、舞台を前に半二郎を襲った交通事故です。
入院を余儀なくされた半二郎が、自分の代役として、息子の俊介ではなく、部屋子の喜久雄を指名したことから、運命が大きく動き出します。

上方歌舞伎の誇る花井半二郎が選んだのが喜久雄…。それは、2人の関係に亀裂を生みます。
「血」か「芸」か…。象徴的なシーンがあります。病室での猛稽古の末、舞台に立つ喜久雄。その楽屋を俊介が訪れると…。

「俊ぼん、こ、これ、見てえな、震えが止まらんねん」
(中略)
「俊ぼん、怒らんで聞いてくれるか?」
「なんや?急に」
「俺な、今、一番欲しいの、俊ぼんの血ぃやわ。俊ぼんの血ぃコップに入れてガブガブ飲みたいわ」

名門の血を飲まなくても、猛特訓した芸を体が覚えていました。急遽代役を務めた喜久雄の舞台は大喝采を浴びて、客は大入り、喜久雄は一躍「時の人」となったのです。
そして千秋楽の夜、興行主と2人が舞台の成功を祝った翌日、俊介は忽然と姿を消しました。「父上様 探さないで下さい 俊介」という書き置きを残して…。

この辺りから物語は、思いもよらぬ壮絶な展開を見せていきます。
喜久雄の故郷・立花家の凋落、恋人との別れ、そして上方歌舞伎の雄・半二郎の死…。後ろ盾を失った喜久雄を待っていたのは、情け容赦のない冷遇でした…。

国宝(上)青春篇

彼にとっては、舞台に出れなくなることが何よりも辛いこと、そんな喜久雄をさらに苦境に追いやる出来事が起こります。
失踪した俊介の消息が、ふとしたきっかけで知られることとなります。ある地方劇団で評判な「有馬の化け猫」を妖艶に演じる役者がいるとのこと…。

それが俊介でした。俊介を歌舞伎界に呼び戻そうと画策する興行主から請われた当代随一の女形・小野川万菊が舞台を訪れると…。
カッと見開いた万菊の目が、舞台の化け猫(俊介)を捉えます。そして、舞台を見つめる万菊の大きな手が、化け猫の舞をなぞるように動き出したのです。

舞台の俊介、客席の万菊。地方の劇場で、誰も気づかぬ共演が繰り広げられます。演目が終わると、万菊が楽屋の俊介のもとを訪れます。

「今の舞台、しっかりと見せてもらいましたよ。…あなた、歌舞伎が憎くて仕方ないんでしょ」
一瞬、俊介の視線が揺れます。
「…でも、それでいいの。それでもやるの。それでも毎日舞台に立つのがあたしたち役者なんでしょうよ」

映画では、田中泯さんが演じた万菊。この場面は映画ではカットされましたが、万菊の言葉は別の場面に組み込まれていました。物語を左右するとても重要な一節です。
このあと俊介は、万菊の指導を受けて、歌舞伎界に復活します。そして、ますます舞台から遠のくこととなった喜久雄は、そんな俊介に嫉妬して、「芸」の道を外れた行動に出るのです…。


この作品は、単なる「歌舞伎の世界を描いた物語」ではありません。それは、血の呪縛宿命的な友情、そして「美」という魔物に魅入られた人間たちの、壮絶な戦いの記録です。
この戦いの結末はいかに…。「国宝(下)花道篇」は、また後日、当ブログにて紹介したいと思います。

今日の夢中は、「国宝(上)青春篇」!青春のすべてを歌舞伎に捧げた若者たちの数奇な運命でした。
ありがとう、「国宝(上)青春篇」! ありがとう、吉田修一さん!

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