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館長のふゆきです。
今日の夢中は、今村翔吾さんが描く「羽州ぼろ鳶組」シリーズ10作目。
羽州ぼろ鳶組"零"「黄金雛」!"火喰鳥"松永源吾はじまりの物語!父から子へ受け継がれる思い…です。
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■あらすじ
舞台は、のちに「火喰鳥」と称される松永源吾が火消として歩み始めたころ…。
16歳の源吾は、その若さと才能を存分に解き放って、江戸の火消しに躍動する日々を送っていました。
彼だけではありません。この年は江戸に火消ができてから空前の新人豊作の年になっていました。
飯田町定火消の松永源吾に加え、加賀藩火消の大音勘九郎、よ組の秋仁、い組の漣次、に組の辰一、八重洲定火消の進藤内記…。
市井の者たちは、彼ら若き火消したちへの期待を込めて、「黄金世代」と呼びました。
そんな中、江戸の町で異様な火災が連続して発生します。それは、ただの火災ではない、毒を吐き出す戦慄の炎…。
熟練の火消すら生還が難しいその炎に、若き火消たちは出動を禁じられてしまいます。それでも源吾ら黄金世代はたぎる思いを抑えきれず、禁を破って現場に駆け付けますが…。
やがて明らかになる過去の事件とも連なる深い闇…。そしてついに姿を現す驚愕の火付け人…。
果たして、この事件の真相とは?源吾は、因縁の業火を消すことができるのか。黄金世代を待ち受ける未来とは…。
■黄金の世代
直木賞作家・今村翔吾さんが、江戸の火消たちの活躍を描く「羽州ぼろ鳶組」シリーズ。
10作目となる本作「黄金雛」(こがねびな)は、羽州ぼろ鳶組「零」と冠される通り、主人公・松永源吾のはじまりの物語です。

火消として歩みを始めた松永源吾、16歳。
持ち前の才能と行動力を発揮して、すでに数々の火消しで実績を上げ、市井で絶大な人気を得ていました。
彼だけではありません。この年、同世代の若手火消が続々とその名をとどろかせます。
その若手火消の台頭は、市井の人から「黄金(こがね)の世代」ともてはやされました。次々と登場する若手火消たちに、「羽州ぼろ鳶組」シリーズファンは胸をときめかせます。
八重洲定火消の「菩薩」進藤内記、よ組の「稚蝗」秋仁、い組の「小天狗」漣次、に組の「空龍」辰一、加賀藩火消の「黒鳥」大音勘九郎、そして飯田町定火消の「黄金雛」松永源吾。
いずれも、本シリーズで主役級の活躍をする火消たち。その若い頃も、性格が変わっていないどころか、一層個性が際立っているところに、にんまりとしてしまいます。

この黄金世代が、いつもはいがみ合っているのですが、江戸を襲う異様な火災を鎮圧するために一致団結するようになるのが、この巻の見どころの一つ。
そこで「要」となる役割を果たすのが源吾なんですよねぇ…。さすがは人間力の塊、松永源吾。
火事場への出勤禁止の命を破って火災現場に突入したことを、重鎮らにたしなめられると…。
「命を救うのに我慢が必要なのかよ」
「そんな我慢を覚えるくらいなら、俺はいつまでも今のまま一火消でいい」
「あんたらは俺たちが憧れた火消だろうが!いつから火消を辞めちまったんだ‼」
こりゃぁ、若手火消どころか、重鎮を含めた火消すべての心を一つにしますね。若き日の源吾にも惚れ惚れしてしまいます。
■父と子
もう一つの見どころは、その源吾と、父・松永重内との微妙な父子関係です。
源吾にとって、父は尊敬に値しない火消…。火事場に先着しても、後から来た加賀鳶に消口を譲ってしまう姿に、「父のような火消にはなりたくない」と恥ずかしく思うのでした。
実際に、重内は「鷹揚を通り越して暢気(のんき)な人」でしたが、それでも火消仲間から信頼され、番付にも名を連ねています。
源吾にとって、そのことすら「力もねえのに、番付に入っているから嫌い」なのですが、その重内の真の姿が本巻で明かされるのです。
物語のクライマックス。謎の火付け人がついに姿を現すと、すべてを焼き尽くすように業火が屋敷を包みます。
絶体絶命の火事場の中に、ゆらりと踏み込んできたのは、使い古された柿茶の羽織…松永重内でした。
部屋中に轟音が鳴り響き、炎が梁や棟木を焼き崩す、地獄絵図のような現場で、冷静かつ的確に指示する重内の姿を源吾は目の当たりにします。
そして初めて明らかになる、重内が加賀鳶に消口を譲った理由、薄汚れた手拭いを使い続ける理由、そして息子・源吾への思い…。
「親父…」「ああ、諦めるな」
たった一瞬。止まっていた時が一気に流れるかのように、親子の間には百万語の会話があった。
百万語の会話にも増して心にしみるシーン…。そして、この後に発せられる父から子への最後の言葉には、思わず胸がつまりました。
この言葉があったから、「黄金雛」は「火喰鳥」へと飛躍できたのでしょう。まさに「零」…はじまりの物語に相応しい、羽州ぼろ鳶組の前日譚でした。
今日の夢中は、羽州ぼろ鳶組"零"「黄金雛」!"火喰鳥"松永源吾はじまりの物語!父から子へ受け継がれる思い…です。
ありがとう、羽州ぼろ鳶組「黄金雛」! ありがとう、松永重内・源吾!









