
こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、米澤穂信「可燃物」!"孤高の刑事"葛警部の疎まれながらも冴えわたる名推理です。
「夢中図書館 読書館」は、小説や雑誌などの感想や読みどころを綴る読書ブログです。あなたもお気に入りの一冊を見つけてみませんか?

■あらすじ
主人公は、群馬県警捜査一課の葛(かつら)警部。
余計なことは喋らない。上司から疎まれる。部下にもよい上司とは思われていない。
しかし、その卓越した捜査能力は誰もが認めるところ。彼にだけ見えている事件の「真の姿」があります。
群馬県のとあるスキー場での遭難事故から発見された刺殺体。
犯人は一緒に遭難していた男とほぼ特定できるが、凶器が見つからない。
その場所は崖の下で、凶器を処分することは不可能だった。犯人は何を使って刺殺したのか…。
(「崖の下」)
榛名山麓の行楽地で人間の右上腕が発見。そこから明らかになるバラバラ遺体遺棄事件。
単に遺体を隠すためなら、遊歩道から見える位置に右上腕を捨てるはずはない。
なぜ犯人は人目に付く場所に死体を捨てたのか?犯人が死体を切り刻んだ真の意図とは…。
(「命の恩」)
太田市の住宅街で連続して発生する放火事件。
県警葛班の捜査が進むなか、容疑者の犯行がぴたりと止まってしまう。
誰が何の目的で放火したのか?そしてなぜ放火は止まったのか。捜査は行き詰まるかに見えたが…。
(「可燃物」)
孤高の刑事・葛警部が、淡々と、しかし執拗に、一筋縄ではいかない難事件の核心に迫っていきます。
葛警部の研ぎ澄まされた洞察力が光る、表題作ほか5編を収録した珠玉の連作短編集です。
■可燃物
今日とり上げる作品は、直木賞作家・米澤穂信さんが手掛ける初の警察ミステリー「可燃物」です。
表題作を含む5編を収録した連作短編集。2023年ミステリーランキング3冠を達成した作品です(「このミステリーがすごい!」第1位、「ミステリが読みたい!」第1位、「週刊文春ミステリーベスト10」第1位)。

直木賞を受賞した作品「黒牢城」を読んで以来、すっかりファンとなったミステリー作家・米澤穂信さん。
本作は米澤さんが警察小説に挑むということで、どんな作品になるのか楽しみに手をとりましたが、これがもう期待を上回る面白さでした。
何よりも、主人公の孤高の刑事・葛警部という人物がとびきり面白い…。
「面白い」といっても、笑えるとか愉快とかそういうのではなく、むしろ逆。冷静沈着にして、自分の感情を一切表に出しません。
事件解決のためなら上司も部下も容赦なく使う、きわめてドライで合理的な捜査官。これまでの警察ミステリーの主人公像とは全く異なる、異色の名探偵です。
葛警部のクールで論理的な捜査の仕方を見て、浦沢直樹さんの漫画「MONSTER」のルンゲ警部を思い起こしました。
ルンゲ警部が様々な情報をキーボードを打つ仕草で脳裏に焼き付けるように、葛警部も部下たちが収集した細部にわたる資料を自分の周囲に広げて独自の論理を組み立てていきます。

この謎解きのプロセスも本作の見どころの一つ。葛警部が辿り着く真相は、すべて作中に示された情報から論理的に導き出されています。
つまり「手がかり」は私たちの目の前にあるのです。その徹底したフェアネスさもミステリー・ファンをとりこにするところ。
なぜ現場から凶器が消えたのか…。第三者が関与したのか…。凶器を消してしまう方法があるのか…。
読者は、葛警部が資料を丹念に読み解き自問自答を重ねる思考回路を、まるで隣で覗き見ているように追体験できます。
事件の謎を共に解いていく感覚は、極上の知的興奮をもたらします。そしてついに事件の真相にたどり着いたとき、葛警部の鮮やかな推理とクールな魅力にすっかり引き込まれているはずです。
ちなみに、この葛警部が庶民っぽいところを見せるのが食事のシーン。忙しいのか自分の嗜好なのか分かりませんが、コンビニで買った菓子パンとカフェオレを頬張ります。
あまり健康に良くないんだけどな…。冷徹な葛警部が甘い菓子パンをかじりながら捜査を進める姿を想像するとなんだか可愛らしくて…。そのギャップに思わず応援したくなっちゃいます。
他にも、葛警部という異分子が警察という組織の中でさまざまな軋轢を生んでいく、組織の問題にメスを入れているところも読みどころ。
このリアリティーとミステリーが融合しているところが、警察小説の新たな傑作と言われている所以なのかもしれません。
今日の夢中は、米澤穂信「可燃物」!"孤高の刑事"葛警部の疎まれながらも冴えわたる名推理でした。
ありがとう、「可燃物」! ありがとう、米澤穂信さん!









