隆慶一郎「捨て童子・松平忠輝」!"鬼っ子"忠輝の爽快にして壮絶な前半生

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館長のふゆきです。

今日の夢中は、隆慶一郎「捨て童子・松平忠輝」!"鬼っ子"忠輝の爽快にして壮絶な前半生です。
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■あらすじ

「鬼っ子」と呼ばれた男、松平忠輝
徳川家康の第六子でありながら、容貌怪異なため、生まれてすぐ家康に「捨てよ」と言われ遠ざけられました。

しかし、怪異なのは外見だけではありませんでした。やがて、忠輝はとてつもない能力と才能を持つ傑物に成長します。
戦えば精鋭の忍びが束にかかろうと寄せ付けず、学べばすぐにラテン語を理解し南蛮医術を修得、しかも性格は明朗快活で誰もがその人柄に惹かれます。

捨て童子・松平忠輝(上)

ただ、その傑物を恐れ排除しようとする人物がいました。忠輝の異母兄にして、後に2代将軍となる徳川秀忠
執拗に忠輝の命を狙う秀忠と配下の柳生一族。果たして、忠輝は秀忠の刃をかわすことができるのか…。

さらに、忠輝の底知れぬ才能は、周囲の様々な人物に大きな影響を与えていきます。
大久保長安、豊臣秀頼、千姫、伊達政宗、五郎六姫、そして徳川家康…。

ときは戦国末期から江戸幕府の草創期。関ヶ原を経て、天下は徳川の時代へ…。
しかし盤石に見えた徳川政権の影で、父家康と子秀忠の暗闘がありました…。果たして、風雲児・忠輝の運命はいかに?

■松平忠輝

松平忠輝という人物を知っていますか?
このひと、実在の人物なんですが、よほどの歴史好きじゃないと知らないのではないでしょうか。

捨て童子・松平忠輝(中)

松平忠輝は、天正20年(1592)徳川家康の六男として生まれました。
江戸時代初めに、信濃国川中島藩主や越後国高田藩主を務めたひとです。

ただ、ときは戦国の世でもなく、有名な戦で活躍した武将であるわけでもない…。
普通に考えれば、歴史の片隅に埋もれてしまうような人物に、隆慶一郎さんはスポットライトを当てました。

その理由について、隆さんが文庫あとがき「執筆を終えて」に寄せています。

「人外の化粧」(じんがいのけしょう)という言葉がある。文字通り、人間の世界の外で生きる怪物という意味だ。
(中略)私はこの言葉が好きだし、歴史の中でこの手の人たちにぶつかると、我ながら異常なほど興味を抱くことになる。

隆さんの言う「怪物」とは、本物の怪物の意味ではなく、人間とは思われない能力と気質を持つ者のこと。
たしかに、隆さんは「一夢庵風流記」では天下の傾奇者・前田慶次郎をとり上げたり、非情の剣を磨いた柳生一族や尋常ならざる剣士たちを描いてきました。

Version 1.0.0

一夢庵風流記

その観点から言うと、本作の松平忠輝はまさに「人外の化粧」。「玉輿記」という書に次のような記載もあるほどの怪物です。
「此人素生、行跡実に相強く、騎射人に勝れ、両脇自然に三鱗あり、水練の妙、神に通ず。故に淵川に入って蛇竜、山谷に入って鬼魅を求め、剣術絶倫、化現(神仏が形を変えて現れること)の人也

こうした人物に共通した特徴は、「その気宇の途方もない広大さと、そのヴァイタリティの強烈さ」だと言います。さらに隆さんは続けます。

だから、疎外され、ついには追放されることになる。だが、考え方が大きくて何が悪い。ヴァイタリティが異常に強いのがなぜ罪になるのか。彼等は己れの信ずるところをまっしぐらにつっ走っただけではないか。

まさに、この言葉は、松平忠輝の生き様にそのまま当てはまります。
ヴァイタリティあふれる忠輝に降りかかる数々の危難。なぜ、真っすぐに生きようとする者が責められなければならないのか…。

■見どころ

物語は、どこまでも正直に真っすぐに生きようとする忠輝を軸に、壮大なスケールで展開していきます。
史実をベースに描かれますが、そもそも松平忠輝という人物の顛末が分からないから、ドキドキが止まりません。

この忠輝と対照的に冷酷非情で狭量な人物として描かれているのが、兄の徳川秀忠
この秀忠が忠輝の命を執拗に狙います。それは、忠輝の天賦の才を羨み、憎んでのもの…。

本当に理不尽で、どうしようもない理由ですよね…。
隆慶一郎さんは、その著作で一貫して、徳川秀忠を冷酷非情な人物として描いています。

もしかしたら、ワルモノ徳川秀忠の半生を追っていて、そこに対峙した松平忠輝という人物に俄然興味がわいたのかもしれません。
というよりも、それこそ「人外の化粧」として、2代将軍という絶対的な権力にすら屈しない忠輝を描くことで、人間のヴァイタリティや自由の崇高さみたいなものを描きたかったのかも…。

捨て童子・松平忠輝(下)

物語は、関ヶ原の戦いから、大久保長安事件、政宗の遣欧使節、大阪の陣など、実際に起きた戦や史実を絡めて展開していきます。
そのなかで、悲運の将・豊臣秀頼との友情や盟友・雨宮次郎衛門との親交、さらには傀儡子(くぐつ)一族との絆などが描かれていきます。

最大の見どころは、もちろん、兄秀忠との戦い
秀忠が差し向ける刺客、柳生一族の凶刃が忠輝を襲います。その対決の行方はいかに…。

そして、もう一つ目が離せないのは、自らを捨てた父家康との関係
物語の終盤、家康は忠輝に言います。「鬼っ子は鬼っ子らしくしか生きられまい。だが死ぬな。決して死ぬな」。
家康がこの言葉にこめた思いとは…。そして、父と子が最後に交わした言葉とは…。


捨て童子・松平忠輝(全3巻)

「人外の化粧」松平忠輝を描く傑作時代小説、「捨て童子・松平忠輝」
文庫では全3巻の大部ですが、読み出せばあっという間、ときを忘れて読みふけるでしょう。

なお、隆さんは文庫あとがきで、本作の続編も描きたいという思いを綴っています。
ただ、それは隆さんが急逝したことで果たせぬ夢となってしまいました…。
だからこそなお一層、本作を読んで、忠輝と隆さんの夢の続きを空想したい…。そう思うのでした。

ありがとう、「捨て童子・松平忠輝」! ありがとう、隆慶一郎さん!

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