こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、万城目学さんの小説「バベル九朔」です。
■バベル九朔
「バベル九朔」。
どんなストーリーなんだろう…。なんとも不思議なタイトルですよね。
そのタイトルからイメージするのは、旧約聖書に登場する「バベルの塔」。
人類が天にも届こうとする巨塔をつくろうとしたとしたので、その傲慢さを神が怒って建設を頓挫させたという、伝説の塔です。
小説「バベル九朔」の舞台となるのも、とある「塔」です。
しかし、それは今や時代に取り残されたような、5階建ての雑居ビル。
その名も、管理人の名前「九朔」(きゅうさく)を冠した「バベル九朔」。
そのビルが物語の舞台です。しかも、ストーリーは、このビルから一歩も出ることがなく進行します。
いわく、「全編ビルから出ずに繰り広げられる、最狭(さいきょう)かつ最高の冒険譚!」。
「冒険譚」と名がつく通り、単にビルの住人たちの日常を描く物語ではありません。
バベル九朔に展開される万城目ワールド…。そこから、「バベル」の名にふさわしい奇想天外な物語が始まるのです。
■あらすじ
主人公は、5階建て雑居ビル「バベル九朔」の管理人をしながら作家を目指す、27歳の九朔。
ごみを狙うカラスとの格闘、巨大ネズミ「ミッキー」の出没、空き巣事件発生…。
慌ただしい管理人業務をこなすさなか、ついに念願の大長編を書きあげました。
あとはタイトルを決めるだけ…。
そんな九朔の前に、全身黒づくめでスタイル抜群の「カラス女」が現れます。
「扉はどこ?」
訳も分からないまま追われ、逃げ込んだテナントのギャラリー。
そこで、ある絵に触れた途端、九朔は水に沈み込むような感覚に意識を失います。
そこから始まる摩訶不思議なストーリー。
意識を戻した九朔が目にしたのは、もう一つのバベル九朔。
そこは、5階よりはるか上へ、果てしない階段が広がっていました…。
■万城目ワールド
名作「とっぴんぱらりの風太郎」から2年半ぶりとなる長編が、待望の文庫化となりました。
文庫化に際して、200枚削って40枚足した力作。
雑居ビルの中だけで完結する話にしようと、既刊の原稿に大幅に手を入れたそうです。
結果として、「全編ビルから出ずに繰り広げられる、最狭(さいきょう)かつ最高の冒険譚!」が生まれました。
前半は、「これが万城目作品?」というくらい、何気ないテナントビルの日常が描かれます。
なんでも万城目さん自身も管理人をやりながら小説家をめざしていた時期があるんだそう。
ゴミ掃除とか公共料金の徴収とかの管理人業務が、リアルに細かく描かれているのは実体験ゆえなんでしょうね。
それが中盤、謎のカラス女がサングラスを外してから、一気に万城目ワールドに突入していきます。
現実のバベルとは異なる、もう一つのバベル。
そこに現れるのは、見知らぬテナント群。謎の少女とカラス女。そしてバベルの鍵を握る男が…。
読みながら、なぜか村上春樹作品にもつながるような、不思議な世界観に没入しました。
現実と隣り合わせにあるもう一つの世界、万城目ワールド。ますます深みを増しているようです…。
「バベル九朔」に隠された壮大な秘密とは?九朔の小説家になる夢はかなうのか?
読み終えた後、不思議なタイトルに込められた意味が分かります。だからバベルだったのね…。
「鴨川ホルモー」や「プリンセス・トヨトミ」とは一味違う、「最狭」の万城目ワールド。
あなたも体験してみませんか。
ありがとう、バベル九朔! ありがとう、万城目学さん!