
こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、「義経じゃないほうの源平合戦」!"凡人"源範頼の人間臭い生き方とささやかな造反と…です。
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■あらすじ
「ここに何をしに来た、範頼とやら」。
命の危機を感じて兄のもとへはせ参じた源範頼に対して、その兄・頼朝は冷たく言い放ちます。
そんな頼朝と範頼の険悪な初対面を救ったのが、一足早く駆けつけていた弟・義経でした。
「私はぜひとも、範頼兄さまとともに、轡を並べて平家と戦いたく存じます」。
そうして源氏軍団に加わった範頼は、カリスマ的で冷徹な兄に従順に仕え、天才的な軍事の才を持つ弟とともに平家と戦うことになります。
一ノ谷の戦いや屋島の戦い、そして壇ノ浦の戦いと、義経は神のごとき武勇と軍略を発揮し、平家を滅亡に追い込みます。
一方、範頼のほうは、一ノ谷では目立った戦果を挙げられず、屋島には参加せず、壇ノ浦では義経が船の上で戦っているのを陸からぼんやりと眺めていました。
そこそこ重要な立場にいるのに、肝心な戦いのときに、いつも微妙にその場にいない男、源範頼。
そんなパッとしない「義経じゃないほうの男」も、実は人知れず戦いを繰り広げていました。はたして範頼はいかに戦ったのか。義経じゃないほうの源平合戦の行方は…。
■義経じゃないほうの男
なんともユニークな源平合戦絵巻に出会うことができました。
源平合戦という激動の時代を、源頼朝と源義経に挟まれた「凡人」源範頼の視点から描いた「義経じゃないほうの源平合戦」。
これまで江戸時代を舞台に小説を手掛けてきた白蔵盈太さんが初めて鎌倉時代を扱った歴史小説です。
この小説の最大の魅力は、なんといっても主人公・範頼の人間臭さにあります。
冷徹な兄・頼朝に睨まれひぃぃと震えあがる範頼。「なんだか窮屈になったなあ」と深いため息をつく範頼。軍議で意見を求められれば「大筋は私の考えも同じです」と前のひとの発言にのっかる範頼…。
兄・頼朝からは結果を出せとプレッシャーをかけられ、弟・義経は破竹の勢いで手柄を立てていく。
そんな中で範頼はひたすら地道に、堅実に職務を全うしようとします。兵糧の心配をしたり、味方の諍いを仲裁したり、あるいは兄や弟の無茶ぶりに頭を抱えたり…。
その姿は、まるで大企業の中間管理職のようです。そんな「義経じゃないほうの男」範頼に共感する人は多数いるのではないでしょうか。
■2つの造反
ワンマン社長・源頼朝率いる源氏会社のなかで愚直に職務を全うする中間管理職、源範頼。
ただ、その範頼が物語のなかで2回だけ、カリスマ的な兄・頼朝に反発(の意思を示す)するシーンがあります。
「凡人」源範頼のささやかな造反。一つは、頼朝との対立が決定的となった義経に、誰にも知られぬようにひそかに会いに行くシーン。
腹心から「頼朝様に試されているのです」と釘を刺されながらも、義経と会ったことを誰かに知られたら身の破滅となることが分かっていながらも、範頼は会わずにはいられませんでした。
それでも、ここで義経に一度も会わずに終わってしまったら、自分の中の何か大事なものが壊れてしまうような気がした。
そんな本当に人間臭い範頼と、兄・頼朝に厭われ憔悴した義経の対面は、なんとも切なく心を揺さぶります。
はじめて義経に対して強い口調でさとす範頼…。そこには、事なかれ主義の中間管理職とはかけ離れた、何が何でも弟を救おうとする情熱あふれる兄の姿がありました。
もう一つの範頼の造反は、物語の終盤、頼朝が義経を討伐する軍をもよおすシーンに訪れます。
範頼に対して、「お主を義経追討の総大将としたい」と重々しい口調で言い渡す頼朝。固辞する範頼に対して頼朝は一喝して、半ば強制的にその任を引き受けさせます。

(息障院 源範頼館跡/写真ACより)
屈辱的ながらも謝るのには慣れた範頼。「ははっ」と返事をして頼朝の前を去ろうとしたとき、頼朝の放った一言に範頼の中の何かが弾け飛びました。
そして、これまで胸に秘めていた感情がほとばしるように、範頼は頼朝に対して怒りをぶちまけるのです。
そこには「義経じゃないほう」の無名の男はいません。敢然と強大な兄に立ち向かう、唯一無二の男・範頼が存在します。
頼朝の一言とは…。範頼の返答とは…。そのやり取りに、理不尽な仕打ちを受けて悩む中間管理職は皆、溜飲を下げることでしょう。
くわしくは、ぜひ小説を手に取ってご覧ください。きっと、あなたも「凡人」範頼の戦いに共感するはず。
今日の夢中は、「義経じゃないほうの源平合戦」!"凡人"源範頼の人間臭い生き方とささやかな造反と…でした。
ありがとう、「義経じゃないほうの源平合戦」! ありがとう、白蔵盈太さん!