こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、万城目学「八月の御所グラウンド」!真夏の白球が灯すやさしい奇跡の物語です。
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■祝!直木賞受賞
ついに、万城目学さんが直木賞を受賞しました。
なんと、初めてノミネートされたのが16年前、それから6度目の挑戦での直木賞ゲットです。
万城目学さんと言えば、「万城目ワールド」と呼ばれる奇想天外でユーモラスな作風が特徴の人気作家。
これまで「鹿男あをによし」や「プリンセス・トヨトミ」、「とっぴんぱらりの風太郎」などが直木賞候補に挙がりました。
どの作品も珠玉の万城目ワールド作品となっているのですが、過去5度いずれも受賞を逃し、6度目となる今回も「すれ違うと思っていた」と万城目さん。
だから「今回も緊張せずに人ごとのように暮らしてましたら、受賞です、って電話があってビックリ」なんてコメントを発しています。
そんなご本人も驚きの第170回直木賞(2023年下半期)を受賞した作品。それが「八月の御所グラウンド」です。
舞台となるのは、千年の都「京都」。デビュー作「鴨川ホルモー」で舞台となった万城目作品の原点、聖地とも言える場所です。
「八月の御所グラウンド」はそれ以来の京都が舞台の作品ということで、万城目ファンにとって歓喜の一冊。
それが直木賞受賞とは!万城目ファン感涙の一冊となりました。本当におめでとうございます、万城目さん!
今日は万感の思いを込めて、本作「八月の御所グラウンド」を取り上げます。まずはあらすじから。
■あらすじ
「朽木は、野球できるよな?」
借金のある友人の多聞から誘われ、謎の草野球大会「たまひで杯」に参加する羽目になった大学4回生の朽木。
ときは、灼熱の八月、ところは、京都の御所グラウンド…。
「掛け値なしに最悪」の状況に、朽木のほか、多聞と同じ研究室の学生やバイト仲間らが集まります。
たまひで杯は6チームによる総当たり戦。1日おきに早朝試合が行われます。
初戦こそ9人集まり勝利した朽木たちでしたが、2試合目から9人そろわないという問題が発生します。
(写真はイメージです/写真ACより)
不戦敗やむなしの事態に、たまたま相手チームの応援に来ていた、朽木と同じゼミの中国人女性留学生シャオさんを引き込み…。
さらには、そのシャオさんがたまたま近くにいた「えーちゃん」という青年に声をかけて…。そこから八月の御所グラウンドは思いもよらぬ展開を見せていくのです。
はたして「たまひで杯」の行方は?「えーちゃん」とは何者か?「八月の御所グラウンド」で朽木が目にする奇跡とは…。
幻の出会いが紡ぎ出す、やさしくも少し切ない青春の物語。第170回直木賞受賞作です。
■日常と非日常
「八月の御所グラウンド」について、直木賞の選考委員は「日常の中に非日常がふわっと入り込んでくる絶妙さとバランスの良さ」を称賛していました。
まさにそう…。本作は、普通に流れていく学生たちの日常生活のなかに、不意に思いがけない非日常が紛れ込んできます。
それは、朽木が偶然にシャオさんを見かけたり、たまたま「えーちゃん」という青年と出会うことからはじまるのですが…。
万城目さんは「日常が9割、非日常は1割の案配」で書いていると言っています。この案配こそが万城目ワールドの魅力になっていると思います。
「日常」と「非日常」、本作では「生者」と「死者」と言っていいかもしれません。
その両者が交錯して生まれる小さな奇跡。それが読み手の心にやわらかな感動の火を灯すのです。
(写真はイメージです/写真ACより)
ちなみに、本作の主人公・朽木は、「あなたには、火がないから」と彼女にフラれました。
そのことから夏休みの予定が無くなり野球に巻き込まれるのですが、そんな芯のない朽木が、御所グラウンドでの幻の出会いを通じて、少しずつ変わっていきます。
「えーちゃん」。そして、彼が働く工場の後輩という山下君と、その同じ中学出身という遠藤君。
自分たちと同世代もしくは年下の彼らが、なぜそんなにも一生懸命に野球をするのか。そしてなぜ御所グラウンドに現れたのか…。
ヒントは、「京都」そして「八月」にあります。少しずつ種明かしされていくストーリー展開も絶妙。
物語の終盤、ある結論に至った朽木と多聞のやり取りが、素朴ながらも胸に突き刺さります。特に多聞が朽木に語りかけるひとこと。
「なあ、朽木。俺たち、ちゃんと生きてるか?」
この言葉にじんわり火が灯りました。今日の夢中は、万城目学さんの「八月の御所グラウンド」。第170回直木賞受賞作をとり上げました。
ありがとう、「八月の御所グラウンド」! おめでとう、万城目学さん!