こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、隆慶一郎「柳生非情剣」!剣に生き剣に死した柳生一族の凄絶な物語です。
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■あらすじ
剣に生きる一族として、徳川将軍家の指南役となった柳生一族。
輝かしく見える剣の道ですが、その陰には常人では計り知れない激烈な闘いがありました…。
連也斎、友矩、宗冬、十兵衛、新次郎、五郎右衛門。
尋常でない修行が生み出す剣技、江戸柳生と柳生本家の確執、肉親相撃つ悲しき宿命…。
稀代の時代小説作家・隆慶一郎氏が、柳生の男たちの凄絶な生き様を描いた短編集。
収録作品は次の通りです。
慶安御前試合(柳生連也斎)
柳枝の剣(柳生友矩)
ぼうふらの剣(柳生宗冬)
柳生の鬼(柳生十兵衛)
跛行の剣(柳生新次郎)
逆風の太刀(柳生五郎右衛門)
■柳生非情剣
隆慶一郎さんは、館長ふゆきが大好きな作家のひとりです。
代表作には、「影武者徳川家康」や「吉原御免状」、「一夢庵風流記」などがあります。
本作「柳生非情剣」は、作者が生前に世に上梓した唯一の短編集。
そうなんです…。隆慶一郎さんは、1989年に天に召されました。
この短編集でとり上げたのは、そんな隆さんが惹かれたという、柳生の一族です。
隆作品の「柳生」と言えば、徳川秀忠の側近として暗躍した柳生宗矩が真っ先に浮かびます。
「影武者徳川家康」でも「吉原御免状」でも、宗矩は圧倒的な「負」の存在感を示しました。
その剣は、まさに「人殺し」の剣。陰湿な暗殺剣で、次々と人を斬りました…。
本作の「あとがき」で隆さんが書いています。
剣は人を斬るための術だ。どんなに飾ろうと所詮人殺しの術である。
さらに「そこに徹しない剣など絶対に強いわけがない」と続けます。
人として生まれて人殺しを是認するという矛盾…。「そんな男たちに尋常の生がある筈がない」。
そんな確信に至った隆さんが、あらためて柳生一族を掘り下げたときに見えたもの…。
それが、「惨憺たる肉親相克の地獄変相図」でした。
■柳枝の剣~柳生友矩
隆さんが、歴史に封印されていた史料のさりげない記述を透かして、その地獄変相図を解き明かしました。
それが「柳生非情剣」に記された、6人の柳生の6つの物語。今日は、その中から、個人的に特に引かれた人物を紹介しましょう。
まずは、「柳枝の剣」に登場する柳生左門友矩(とものり)です。
将軍家光の師範を務める柳生宗矩の次男。これが、眉目秀麗な絶世の美男子でした。
しかも天性の剣の才を持っていました。その剣は、柔軟無頼、舞いを思わせる剣。
家光の小姓を務めることになった友矩は、傲慢な家光に徹底的に打たれることで「死人が生者に勝つ」剣の恐ろしさを示します。
家光は友矩を愛し、友矩もその思いを受け容れます…。ただ、そんな2人の関係は、とても許されるものではありませんでした。
怒り心頭の父・宗矩は、長兄・十兵衛を呼びます。目的は、左門友矩の暗殺でした…。
そして、柳生の里に近い河原で相対する兄と弟。
柳生一族屈指の剛剣・十兵衛に対して、友矩は「柳枝の剣」で立ち向かいます。果たして闘いの結末は…。
■跛行の剣~柳生新次郎
続いて、「跛行の剣」の主人公、柳生新次郎厳勝(よしかつ)。
柳生新陰流の流祖・石舟斎の嫡男です。この人の生き様も凄絶です…。
新次郎は、若くして出陣した合戦で一斉射撃を受けて寝たきりを余儀なくされます。
戦場で死ねせてくれなかったことを天に恨む新次郎に、生き地獄が襲います…。
妻が実父・石舟斎と姦通する姿を目撃してしまったのです…。
その地獄を見た新次郎は、一夜にして容貌が翁のように変貌しました。
その日を境に奇跡的に着座できるようになった新次郎。さらに今日で言う松葉杖をこしらえて、立てるまでに回復すると、ひそかに必殺の剣技を磨きます。
そしてついに迎える決戦のとき…。新次郎を襲う八人の刺客。糸を引くのは、父・石舟斎でした。
雪の中で対峙する八人の剣士と新次郎。新陰流の殺人刀が新次郎を襲います。
絶体絶命の新次郎がとった、想像を絶する剣法とは…。そして、父・石舟斎との因縁の行方は…。
他の作品も負けず劣らず、読み応えがあります。
柳生一族の骨肉争う様は、凄絶そのもの。ときに言葉を失います。
これが、隆さんが見えるがままに描いた、「尋常の生」を送れなかった者たちの生きざま…。
その苛烈な姿に心揺さぶられるのは私だけではないでしょう…。
剣に生き、剣に死なざるを得なかった男たちのドラマ。
隆慶一郎「柳生非情剣」。おススメです。
ありがとう、隆慶一郎さん! ありがとう、「柳生非情剣」!