こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、世界のミヤザキにインスピレーションを与えた物語「風立ちぬ」、堀辰雄著です。
■風立ちぬ
「風立ちぬ」は、堀辰雄の筆による恋愛小説です。
1938年に刊行され、今なお読み続けられている名作です。
表紙に「世界のミヤザキにインスピレーションを与えた~」と書かれている通り、スタジオジブリの宮崎駿監督が、この小説をモチーフに、アニメ映画を制作しました。
ちなみに、私はまだ、そのアニメ映画を見ていません。
だから、あくまで小説「風立ちぬ」の世界しか知りません。その前提でこの記事を読んでいただきたいと思います。
■あらすじ
夏の高原で「私」と節子は出会います。
2人は互いに惹かれ合いますが、節子は病に冒されていました。
2人は療養のために緑深きサナトリウムに向かいます。
四季が織りなす美しい自然のなかで、2人はやさしく愛を育みますが…。
「風立ちぬ、いざ生きめやも」。はかなくも美しい、生と死、そして愛の物語です。
■物語の奥行き
この物語を宮崎駿さんはどんな風に映像にしたのだろう…。
そんな余計な心配をしてしまうほど、原作は核心の場面を描いていません。あえて書き込むのを避けたかのようです。
そして、そのことが、この物語に奥行きを与えています。
「私」が節子をサナトリウムへ誘う場面があるのですが、節子はこう言います。
「ええ、こうしていても、いつ良くなるのだか分からないのですもの。早く良くなれるんなら、何処へでも行っているわ。でも……」
その後、他愛もないやり取りが二人の間でされますが、結局、「でも…」の続きは明かされることはありません。
同じように、サナトリウムで2人は束の間の幸せな時間を過ごしますが、やがて訪れる2人を分かつ瞬間は描かれていません。
気がつくと、サナトリウムの森に迷い込むように、物語の奥深くにとり込まれています。
■限りなく美しい物語
そんな風に、限りなく深く静かな物語であると同時に、限りなく美しい物語であるとも思いました。
それは、堀が描く自然の描写が美しく、四季の彩りと香りを届けてくれることによります。
春夏秋冬、木々の色づきや動物たちの囁き。
豊かな自然が、2人のか細い恋愛にも、美しい実りを与えているようです。
この辺りの描写は、ぜひ宮崎駿さんの映像で見てみたいと思いました。
■風立ちぬ、いざ生きめやも
タイトルにもなった、作中にある「風立ちぬ、いざ生きめやも」という詩は、フランスの作家ヴァレリーの詩を堀が訳したものだそうです。
現代風に言うなら、「風が立った。だから生きようと思うんだけど…」といったところでしょうか。
これまた、奥行きのある、美しい詩ですね。
これを読んだせいなのか分かりませんが、いつもより風の音を感じるようになりました。
ありがとう、堀辰雄!ありがとう、風立ちぬ!