こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、今村翔吾さんのデビュー小説「羽州ぼろ鳶組 火喰鳥」です。
■火喰鳥
すごく面白い時代小説に出会いました。
これだけ引き込まれたのは久しぶり。それが今村翔吾さんの書きおろし小説「羽州ぼろ鳶組 火喰鳥」です。
これがデビュー作だというから、すごい才能の持ち主ですね…。
この人、経歴が面白くて、作家になる前は、ダンスインストラクターや作曲家、埋蔵文化調査員なんかをしていました。
2017年3月、江戸時代の火消したちを主人公にした「羽州ぼろ鳶組 火喰鳥」でデビュー。
同作は、新人作家の時代小説としては異例のヒットをあげ、歴史時代作家クラブ賞の新人賞などを受賞。
「羽州ぼろ鳶組」はすでに続編が刊行され、人気のシリーズとなっています。
さらに2018年に発表した「童の神」は、第160回直木賞に候補作品に。
惜しくも受賞は逃したものの、デビュー2年目のノミネートは、同氏が只者ではないことを知らしめました。
京都出身、1984年生まれの小説家、今村翔吾さん。
衝撃のデビュー作「羽州ぼろ鳶組 火喰鳥」を取り上げます。
■あらすじ
かつて江戸随一の火消として、「火喰鳥」(ひくいどり)と称えられた男、松永源吾。
しかし5年前のある火事をきっかけに火消を辞め、妻の深雪と不遇の浪人暮らしをしていました。
そんな折、羽州新庄藩から士官の誘いが舞い込みます。依頼内容は、壊滅状態にある火消組織の再建…。
源吾は懸命に鳶を集めますが、何しろ少ない予算。衣装もぼろぼろで江戸の民から「ぼろ鳶」と揶揄される始末…。
それでも、元力士や軽業師、天才風読みなど、風変わりな面子が加わり、火消組織は少しずつ形を取り戻していきます。
同じ頃、江戸の町に不審な付け火による火災現象、通称「朱土竜」(あけもぐら)が多発。多くの江戸の民と火消までもが命を落とします…。
巧妙に火を操る下手人。やがて江戸三大大火に数えられる明和の大火が起こります。
源吾ら「羽州ぼろ鳶組」は江戸の町を救うことができるのか。
凶悪な火付けを繰り返す犯人の狙いは。そして源吾は苦しみを乗り越え、再び輝きを取り戻すことができるのか。
■作品の魅力
迫力満点。手に汗握るアクションに謎解き。笑いと涙。
ほんと、これだけ物語に引き込まれたのは久しぶり。傑作です。
何が魅力的かって言うと、まずはその登場人物。
今回はシリーズ1作目ということもあって、仲間集めが物語の柱となっています。
火消組織再建に励む源吾のもとに、元力士や軽業師など、一癖も二癖もある連中が現れます。
誰も火消になるなんて思ってもいません。ただ、それぞれが火事をきっかけに「ぼろ鳶」に加わる決心をします。
一人一章で描かれる物語。読者はきっとお気に入りのキャラクターが見つかるはずです。
そして、魅力その2は、ストーリーに散りばめられた伏線。
一人一章、一話完結の形をとりながら、そこにいくつもの伏線が散りばめられています。
小説全体を貫く「朱土竜」の謎、源吾が火消を退いた理由、謎の剣士の正体、そして夫婦の愛。
物語の最大の伏線が明かされたとき、誰もが愛の奇跡に感動するはず。館長ふゆきは、思わず涙ぐんでしまいました…。
魅力その3は、源吾とぼろ鳶組の男気。
江戸の民を救うためなら、体裁もしきたりも気にしない、自らの命すら顧みない。
読み進めるほどにぼろ鳶組に惹かれていきます。だって、燃え盛る火を前に、源吾がこんな言葉を叫ぶんだから。
世には多くの天災がある。神には何かご意志があるのかもしれねえが、人にとってはただの理不尽でしかない。
そのすべてに指をくわえて黙っていられるほど、俺は人が出来ちゃいねえのさ。
いい加減にしろって横っ面殴ってやる。いくぞ!俺に続け!
クライマックスとなる明和の大火。「朱土竜」があらん限りの咆哮をあげます。
立ち向かうは、源吾率いる「羽州ぼろ鳶組」。果たして、戦いの行方はいかに…。
がんばれ、羽州ぼろ鳶組!ありがとう、火喰鳥!