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館長のふゆきです。
今日の夢中は、「国宝(下)花道篇」!喜久雄と俊介、2人で歩んだ花道のまぶしすぎる終着点…です。
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■あらすじ
時代は昭和から平成へ…。時代の変遷とともに、物語は深淵へと向かいます。
かつて長崎の極道の家から拾われた立花喜久雄は、芸に魅せられ、己の人生全てを芸に捧げていきます。
しかし、伝統ある歌舞伎界の風は、彼につらく厳しく当たります。当代随一の女形へと道を進む喜久雄に待っていたのは、あまりにも過酷な代償でした。
一方、親友であり最大のライバルである花井俊介もまた、舞台で喝采を浴びる女形へと登り詰めます。
名門の正当な血筋を継ぎながらも、その宿命に抗い、もがき苦しみながら己の芸を探し求める俊介。その歩みの影にも、数多の犠牲がありました。
愛する者の死、大切な人との別れ、明かされる過去の真実、積み重なっていく喜びと悲しみ…。
2人が歩む「花道」の先にあるのは、栄光か、それとも虚無か。芸を極めた男が、最後にたどり着いた舞台の幕が開くとき、そこに見えた景色とは…。
■読みどころ
吉田修一さんが歌舞伎の世界を描く渾身作「国宝」。ついに完結する、芸の道の果て…。
上巻「青春篇」で描かれた瑞々しい輝きは、下巻「花道篇」において、「美」という名の狂気へと変わります。
そこにあるのは、芸の神髄を掴むために、自らの命すらも削り取っていく男たちの壮絶な物語でした。
今回は、「国宝(下)花道篇」の数多くある名場面なかから、特に胸に突き刺さったシーンを紹介しましょう。
(以下、ネタバレを含みます。ご留意ください。)

とある出来事をきっかけに、歌舞伎界を追放された喜久雄。それでも舞台を諦められない彼は、「新派」に移籍して、歌舞伎の演目を演じるようになります。
やがて、歌舞伎の俊介と新派の喜久雄が、同じ月に同じ演目で、それぞれ舞台に立つことになりました。これに興味を持った稀代の名優・小野川万菊が2人に稽古をつけることを買って出ます。
片や、歌舞伎界に復活した俊介。片や、歌舞伎界を追放された喜久雄。対照的な2人が、万菊の稽古場で時間差ながらも、互いを意識しながら芸を磨いていきます。
会えないながらも2人一緒に励んだ稽古が実を結んだのでしょう…。この演技は評判を呼び、2人は芸術選奨を受賞。喜びに沸く家族を尻目に、俊介が真っ先に電話をかけたのが喜久雄でした。
何年かぶりに交わされる2人の会話。「おめでとう」「せやな」「ありがとう」…。
喜久雄からは「俺らは宿敵同士や」から「もう電話はいらん」。「いつも睨み合うてるからこそ、それを面白がってお客さんはそれぞれの舞台に足を運んでくれるんや」と。
最大のライバルでありながらも固い絆で結ばれた親友…。そんな2人を象徴するシーンに胸が熱くなりました。
■読みどころ(続)
こうした新派での活躍もあり、芸にかける強い思いの末に、念願の歌舞伎の舞台へ復活を果たした喜久雄。
これでようやく、一緒の舞台に立てるようになった喜久雄と俊介ですが、その矢先に悲劇が起こります。俊介の足が壊死していることが判明…。足の切断を余儀なくされたのです。
そして、物語最大の見せ場がやって来ます。俊介が義足を付けて臨む演目「隅田川」の舞台。
主役の「班女の前」を俊介が演じ、その相手役の「舟人」を喜久雄が演じます。俊介から頼まれた喜久雄は「やるよ、喜んでやるよ」と引き受けました。

俊介の病気は、切断手術をしたとしても、助からない可能性が高いものでした。喜久雄もそれを知っています。おそらく俊介も…。
演目の終盤、「舟人」を演じる喜久雄は、「班女の前」を演じる俊介の状態に異変を感じます。花道の途中でよろけ、立ち上がれず座り込んだまま踊る俊介。額には尋常でない大汗が光ります。
喜久雄が、本来の立ち位置である舞台中央を離れて、花道にいる俊介を迎えに行こうとすると…。
「来るな」という強い眼差しを向けて、俊介は必死に立ち上がろうとします。「立て。俊ぼん、立て」。心のなかで喜久雄が叫んだそのとき…。
いよいよ花道に身を投げ出した俊介が、なんと動かぬ足を引きずって、両腕で這い始めたのでございます。
痛みと意地でぐちゃぐちゃに歪む俊介の表情。状況を察して同じ節を繰り返す三味線。息を呑む客席。
来い、ここまで来い。
ここまで来たら、あとは俺がなんとでもしてやる。来い、俊ぼん。
ここまで来い!
壮絶なラストステージ。懸命に喜久雄のもとに近づこうとする俊介。目をつむり祈るように待つ喜久雄。
映画でも演目は違いこそすれ演じられた、映画史にも小説史にも残る名場面です。果たして、血と芸…宿命の2人が最後に立つ舞台のゆくえは…。
このほかにも名シーンは数々あります。喜久雄と俊介の共演による「源氏物語」、俊介の「白虎」襲名式、小野川万菊の孤独な死、喜久雄と相棒・徳治の別れなど。
なかでも、物語の最終章「国宝」は圧巻です。重要無形文化財保持者に認定されることとなった喜久雄。その日、圧巻の演技を見せた喜久雄は、何かに導かれるように舞台からその先へと足を踏み出します。
それは、至高の美か、底知れぬ狂気か…。芸に全てを捧げ「国宝」となった男が、最後に目にした光景とは…。
今日の夢中は、「国宝(下)花道篇」!喜久雄と俊介、2人で歩んだ花道のまぶしすぎる終着点でした。
ありがとう、国宝! ありがとう、喜久雄&俊介! そして、映画版「国宝」、日本アカデミー賞最優秀作品賞おめでとう!









