こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、清朝末期の中国を舞台にした長編歴史小説、浅田次郎さんの名作「蒼穹の昴」(そうきゅうのすばる)です。
■あらすじ
老易者から「あまねく天下の財宝を手中の収むるであろう」と予言を受けた李春雲(春児(チュンル))。
貧しい糞拾いの少年でしたが、この予言を希望に強い決意を持って宦官となり宮中に出仕します。
一方、「天子様のかたわらにあって天下の政を司ることになろう」という予言を受けた梁文秀(リアンウェンシウ)。
最難関の科挙試験を首席で登第すると、天子・光緒帝のもとに仕えるようになります。
2人は同郷で、春児の兄が梁文秀と義兄弟の契りを結んでいたことから、年の差を超えて互いに信頼し合う仲でした。
やがて、春児は中国・清の権力者、西太后のもとに侍るまでに昇進します。
梁文秀も光緒帝の信頼を得て、帝が進める近代化改革を支えることになります。
ときは清末期、中華大国を襲う大きな変革のうねりに、2人は巻き込まれていくのです。
数奇な運命に翻弄される2人。そして清王朝も苦難のときを迎えます。果たして、蒼天の昴は、誰のもとに輝くのか…。
■蒼穹の昴
浅田次郎さんによる名著、「蒼穹の昴」(そうきゅうのすばる)。
浅田さんが「この作品を書くために作家になった」と評する傑作。清朝末期の中国を舞台にした長編歴史小説です。
続編として、「珍妃の井戸」「中原の虹」「マンチュリアン・レポート」「天子蒙塵」などがあります。
これらを含めて「蒼穹の昴シリーズ」と呼ぶ一大絵巻。そのはじまりが、本作「蒼穹の昴」です。
「蒼穹の昴」は全4巻の大作ですが、読み出せば小説の世界に引き込まれること間違いなし。
西太后や光緒帝など実在の人物も登場する史実をベースにしながらも、浅田流のファンタジーと歴史の複眼的解釈を施して、壮大な歴史絵巻が繰り広げられます。
舞台となるのは、光緒12年(1886年)から光緒24年(1898年)の中国大陸。
清朝末期の中国は、まさに内憂外患。相次ぐ失政や飢饉などにより治世は混乱し、列強が植民地化を虎視眈々と狙う危機的な状態…。
その瀕死の中国を近代化政策により立て直そうとする光緒帝。それを支える梁文秀ら帝党・改革派。
一方で早急な改革を良しとせず政治の実権を手放そうとしない、西太后を戴く后党・守旧派。
両党の争いを軸にしながら、約100年前の英雄・乾隆帝も登場して、天子の証「龍玉」(ロンユイ)の挿話が物語に奥行きを与えます。
果たして、大国清は再興できるのか?やがて明かされていく西太后の意図…。龍玉は誰の手に渡るのか…。
なお、同作は映像化もされていて、日中共同政策のもと全25回がNHKで放映されました。
ちなみに、西太后を演じているのは田中裕子さんです。
■宿命の2人
さて、そんな名作「蒼穹の昴」。
全4巻だけあって、たくさんの人物が登場して、いろんなエピソードが描かれます。
ただ、物語の骨格を成すのは、李春雲(春児)と梁文秀、それぞれが辿る宿命のストーリーです。
無二の友である2人ですが、春児がまだ子供の頃に、些細なことをきっかけに喧嘩別れしてしまいます。
そんな2人が運命に手繰り寄せられるように、本作で3度、運命的な出会いを果たします。
これがいずれも、物語の鍵を握る重要な場面…。2人は、老易者の予言に導かれるように、運命の荒波に巻き込まれていくのです。
(※以下はネタバレを含みます。)
最初の会見は、西太后の御前で披露された演劇「刺巴傑」の場面。
急遽、主役を演じることになった春児が見事な演舞を披露します。会場の喝采を浴びると、その場で西太后から「明日より皇太后宮へ出仕せよ」と異例の抜擢を受けます。
客が引けるなか、会場にいた梁文秀が春児に近づきます。「春児、だな…」。
万感の思いに感極まりながら、春児は昔ながらの呼び名を返します。「少爺(シャオイエ)…」。
それは、春児が子供の頃に別れたきり不通となっていた2人の、久方ぶりの会見でした。
しかしそれは、2人がこれから相容れない道を歩むことになる、訣別の会見でもありました…。
次の会見は、さらに時が進んで、皇党と后党の争いが沸点を迎えようとしていた頃。
立場上、互いを気遣いながらも会うことのできない2人が、図らずも刀子匠の館で出会います。
最初は互いに敬語で話していた2人ですが、やがて歳月を戻すように、昔のままの言葉で語らい合います。
別れた日のこと、妹・玲玲(リンリン)のこと…。そして文秀は、后党には決して明かせない重大な秘密を、春児に語るのです…。
互いに流れる涙を止められない2人。梁文秀は爪の食い入りほどに、涙とよだれにまみれた春児の手を握りしめます。
「春児。力を貸してくれ」。宿命の糸が2人をがんじがらめに絡めていくのです…。
最後の会見は、物語の最終盤にやって来ます。
各国の公使館や出先機関の集う東交民巷の大通りに向いた衛門の前で、2人は相対します。
なぜそこで2人が相対したのか、帝党と后党の争いはどうなったのか、2人は最後にどんな言葉を交わしたのか…。
それは、ぜひ浅田次郎さんの小説「蒼穹の昴」の頁のなかをご覧ください。
全4巻と大作ですが、あっという間。浅田さんが「この作品を書くために作家になった」と評する通り、読者も「この作品を読むために浅田作品を読んできた」と思える傑作。
最後の梁文秀の手紙、春児と西太后のやり取りは必読です。私たちは、どれほどの「やさしさ」を心に養うことができるのでしょうか…。
ありがとう、蒼穹の昴! ありがとう、浅田次郎さん!