なぜ源氏は平家より強かったのか?永井路子「つわものの賦」より

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館長のふゆきです。

今日の夢中は、なぜ源氏は平家より強かったのか?永井路子「つわものの賦」より
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■なぜ源氏軍は平家軍に勝てたのか

源氏対平家の戦い。世に言う「源平合戦」
一ノ谷の戦い(1184年)、屋島の戦い(1185年)、壇ノ浦の戦い(1185年)…。

いずれの戦いにおいても、源氏軍が平家軍を圧倒
最終決戦の地・壇ノ浦で、ついに平家を滅亡に追いやりました。

源平最後の戦い「壇ノ浦古戦場跡」!宿命の対決の果てに…

「驕れるものは久しからずや」と、平家の驕慢をその没落の理由に挙げる物語もあります。
また、いずれの合戦でも天才的な軍略を発揮した、源義経の功績を讃える声もあります。

ただ、直前まで絶大な権勢を誇った平家一門です。事は容易く成るわけがありません。
時代の一大転換期とも言うべき源平合戦の勝敗を分けたものは何か。なぜ源氏軍は平家軍より強かったのか

■つわものの賦

なぜ源氏軍は平家軍より強かったのか。
その問いに対して、作家永井路子さんが歴史評伝「つわものの賦」のなかで、とても興味深い考えを記しています。

「炎環」「北条政子」などで鎌倉草創期を鮮烈に描いた永井路子さん。
「つわものの賦」は、「吾妻鏡」を何度も読み返したという永井さんが、これまでの作品を総括するように取りまとめた歴史評伝です。


つわものの賦

同書の章立ては次のようになっています。

序章  嵐の中への出発   治承四年八月
第一章 中世宣言      三浦義明の場合
第二章 空白の意味するもの 上総広常の場合
第三章 功名手柄      熊谷直実の場合
第四章 東国ピラミッド   源平合戦の意味
第五章 「忠誠」の組織者  梶原景時の場合
第六章 大天狗論      東国対西国
第七章 奥州国家の落日   征夷大将軍とは何か
第八章 裾野で何が起ったか 曽我の仇討ちにひそむもの
第九章 血ぬられた鎌倉   比企の乱をめぐって
第十章 雪の日の惨劇    三浦義村の場合
第十一章 承久の嵐     北条義時の場合

どれもこれも読みごたえがあるんですよね…。新たな発見もたくさんありました。
源平合戦については、第三章から第六章あたりでくわしく触れられています。

■東国ピラミッド

前置きが長くなりましたが、さて、なぜ源氏軍は平家軍より強かったのか。
永井路子さんが史料を紐解いて導き出した答えが、第四章のタイトルにもなっている「東国ピラミッド」です。

曰く、「頼朝を頂点として、東国武士団は大きなピラミッド型に組織されている」
この「東国ピラミッド」が、源氏軍の強さの秘訣であり、画期的な仕組みであったと永井さんは指摘します。

個レベルの「御恩と奉公」を超えた、組織としての結束。家来の手柄は主人の手柄、その主人の手柄は、またその上司たる主人の手柄。そして、その頂点に頼朝がいます。
同時代の源(木曽)義仲軍や平家軍を見ても、個レベルの「御恩と奉公」の類はあったものの、組織レベルの強固なピラミッドはありませんでした。


(ピラミッド/イラストより)

この緊密に組織化された「忠誠」の軍団(=源氏)が、個人レベルの緩い繋がりの軍団(=平家)を圧倒しました。
そりゃそうですよね。主人のため、家来のため…。軍団の結束力が違います。

こうした新しい組織がなぜ東国に出現したかについても、本書に述べられています。
曰く、「長い長い東国の歴史がかかっている。その中ではてしなく繰り広げられた豪族間の戦いと、その中で育てられた忠誠心-」。

おそらく、恩賞など経済的な欲求もあったでしょう。それに報いる強固な仕組みが、度重なる戦のなかで培われていったと考えられます。
こうして東国に生まれていた沢山の小ピラミッドが、頼朝の挙兵を機に、一本化されて巨大な東国ピラミッドになった…。平家の専横など、時代の機運も後押ししたのかもしれませんね。

■身代りと眼代り

さらに、この東国ピラミッドを機能させる、「身代り」と「眼代り」という仕組みがありました。
「身代り」とは、頼朝が動かずとも、その代理人として源範頼や義経が陣頭指揮をするというもの。「眼代り」とは、頼朝が見ずとも、軍監の梶原景時や土肥実平が武将らの功罪を確認し報告するというもの。

この仕組みによって、源氏軍は遠く離れた西国での戦いにおいても、戦線拡大と軍の統制が図れました。
確かに、頼朝自身は出陣していません。それでも軍団が統率されていたのは、「身代り」と「眼代り」が機能していたためと考えられます。


(源頼朝/イラストACより)

ここまで読んで、この東国ピラミッドという組織に違和感を感じない人も多いかもしれません。
そうなんです。現代の大企業などの会社組織や官僚組織って、まさに東国ピラミッドですよね…。

ときに効率的でいて、ときに硬直的でいて…。うまく機能しないと、大東亜戦争のような悲劇を招きます。
この辺りは、永井さんも警鐘を鳴らしています。曰く、「軍隊がなくなった今も熾烈に残る会社への忠誠心。命令系統へのよりかかり、いわゆるタテ社会的な構造なども、広い意味ではこの後遺症の現われといえるだろう」。

ほんと、歴史って面白いですよね…。鵜吞みにするものではなく、時代の変化の中で教訓として捉えていくべきものと思います。
今日の夢中は、永井路子さんの「つわものの賦」。示唆と教訓に富む歴史ドキュメントでした。

ありがとう、永井さん! ありがとう、「つわものの賦」!

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