こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、稀代の時代小説作家、隆慶一郎さんの「鬼麿斬人剣」を紹介します。
■あらすじ
身長六尺五寸(197センチ弱)、体重三十二貫(120キロ)。
巨躯の野人・鬼麿(おにまろ)。
彼は山中に捨てられ、長じて名刀工・源清麿に師事しました。
しかし、その師匠が自ら命を絶ちます。鬼麿に、心ならずも打ってしまった駄刀を「折ってくれ」と託して…。
鬼麿は、師の遺言に従って諸国の旅に出ます。
中山道、野麦街道、丹波路、山陰道…。師の足跡を辿って西へ西へ…。
そこに立ちはだかるのは、百戦錬磨の邪悪な伊賀者たち。
一方の鬼麿には、山窩の孤児「たけ」や、伊賀の娘でありながら鬼麿を慕う「おりん」が一行に加わります。
独特の構えから繰り出される鬼麿の長刀は、人も石も刀をも瞬時に切り裂く必殺の剣。
果たして、鬼麿は数々の苦難を乗り越えて、師の遺志を全うすることができるのか…。
■野人・鬼麿
いやぁ、とんでもないヒーローを生み出しましたね、隆慶一郎さんは…。
自由奔放、天衣無縫、やりたい放題の乱暴者。ただ、信義に篤く、師の遺志のためには自らの命も顧みない。
そして何よりも、剣を握らせれば、圧倒的なオーラで他を圧倒、敵を瞬時に斬り倒す…。
これはもう、読む者誰もが本作品のヒーロー・鬼麿に惚れるでしょう。
隆さんの作品「一夢庵風流記」に登場する前田慶次郎を彷彿させる男ぶりです。
慶次郎の「野人」版ですね。まったくしゃれっ気はないから。
実は、この「鬼麿斬人剣」は、隆さんの作品の中でも初期に書かれた作品です。
だから、後に登場するヒーロー・前田慶次郎の原形が、この鬼麿という人物にあったのかもしれません。
作品は、一章ごとに鬼麿が敵と対決する連作スタイル。
それぞれにドラマが仕込まれていて、一番勝負から八番勝負まで全部で八章のストーリーです。
【目次】
一番勝負 氷柱折り
二番勝負 古釣瓶
三番勝負 片車
四番勝負 面割り
五番勝負 雁金
六番勝負 潜り袈裟
七番勝負 摺付け
八番勝負 眉間割り
何と言っても、その見どころは、章の最後で見せる鬼麿の斬人剣。
これがすさまじい…。何しろ、半径八尺以内に入るものをすべて斬ってしまう必殺の剣。
章ごとに技が異なるのも、見ごたえがあります。この辺りは、さすがは脚本家出身の隆さん作品、映像が目に浮かびます。
それでいて、物語を通じて流れるミステリー要素もあって、読み飽きしません。
なぜ伊賀者が鬼麿を狙うのか、なぜ清磨は逃げたのか、鬼麿の出自とは…。
さまざまな伏線が明らかになったとき、再び読者は鬼麿に惚れてしまうことでしょう。
ありがとう、鬼麿斬人剣! ありがとう、隆慶一郎さん!