こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、徳川家康(20)江戸・大坂の巻!徳川・豊臣和合にかけた家康の思い…そのとき大坂城では?です。
「夢中図書館 読書館」は、小説や雑誌などの感想や読みどころを綴る読書ブログです。あなたもお気に入りの一冊を見つけてみませんか?
■あらすじ
征夷大将軍の座に就き、江戸に幕府を開いた徳川家康。
戦による領土拡大から内政による領国繁栄へと、泰平の時代の統治体制への移行を進めます。
将軍の地位も早々に息子・秀忠に譲ることを決め、幕府体制の盤石化を図ります。
そんな中、家康の頭を悩ますのが大坂城にある豊臣秀吉の遺児・秀頼とその一族の扱いでした。
家康は、徳川・豊臣両家の和合のために孫の千姫を秀頼に嫁がせます。
さらに、秀頼を右大臣にして豊臣家を公家として存続させようと、朝廷との難儀な折衝を進めます。
公家としての豊臣家、武家としての徳川家、そうすれば両家が並び立てる…。
そんな家康の思いをよそに、大坂城では秀頼への将軍譲位を夢見る淀殿が、秀頼の上洛を求める江戸方に怒りを爆発させます。
果して、家康が望む徳川と豊臣の和合そして両立は果たせるのか…。
■江戸と大坂
時代小説史に残る名著、山岡荘八「徳川家康」全26巻。
第20巻「江戸・大坂の巻」では、その巻名のとおり、家康が幕府を開いた後の江戸と大阪の様々な動きと思惑が描かれます。
江戸に幕府を開き泰平の国づくりを進める家康にとって、心配の種は大坂城にある豊臣家でした。
太閤秀吉の威光なお強く財力も潤沢、さらに天下の堅城・大坂城にあって、秀吉の遺児・秀頼の思惑をよそに、再び戦乱の世を望む不穏な輩に担がれかねません。
いかに大阪と豊臣家を扱うか…。開幕以来ずっと頭を悩ませてきた家康に妙案が浮かびます。
それが、豊臣家を公家を統べる者として、徳川家を武家を統べる者として、両家を存続・繁栄させようという案でした。
(徳川家康/イラストACより)
そのために家康は、自身が将軍位とともに就いていた右大臣の座を返上、それを秀頼に渡すこととして朝廷との折衝に当たります。
一方で、自身の子・秀忠は武家の長たる征夷大将軍とするものの、公家の階級では右大臣より一段下の内大臣とすることで、徳川・豊臣両家を並び立たせようとしたのです。
江戸と大坂は二つで一つ…そう世のなかに知らしめることが戦乱の種を摘むことになる。そう考えて家康は、秀忠上洛と合わせて秀頼を伏見に呼ぼうと考えました。
伏見城で、この婿(秀頼)と舅(秀忠)を一緒に上段の間に並べて諸大名の祝儀を受けさせる…そして、一は公家、一は将軍で、いよいよ両家協力して泰平の世を安定させることに決まったぞと、秀忠の口から述べさせてやったらみんな承服するだろう…
■淀殿激高
秀頼の右大臣就任という徳川からの思いがけない報せに、豊臣方の重臣、片桐且元や大野治長までが感動して目を赤くします。
しかしただ一人、まるで駄々っ子のように反対した人間がいます。秀頼の母、淀殿でした。上洛の準備を進めようとする且元に対して激高します。
なりませぬ!たとえ誰が何といおうと、秀頼さまを上洛させること、このわらわが許しませぬ
そして、秀頼の脇腹に懐剣を当てると、「動くと、このまま、若君を刺してわらわも自害…動くまい」と、且元ら重臣を脅迫したのです。
意表をつかれた且元らを何より狼狽させたのは、淀殿がすでに「常軌を逸した病的なもの」になっていることでした。これ以上逆上させたら、何をしでかすか分からない…。
(淀殿/イラストACより)
さらに淀殿は抱える秀頼に向って、戯言にもつかない妄想を言い放ちます。家康は秀頼が16歳になれば天下を渡すと誓った…にもかかわらず天下を秀忠に譲った。秀頼を右大臣に推挙したのは我らを欺く手段…伏見城に呼び出すのは、毒殺するか暗殺するかに違いない。
分別のつかない秀頼も母の言葉に理解を示します。こうなっては、且元も治長もどうしようもありませんでした。全身から力の抜けた彼らに対して、淀殿はこう言い放ったのです。
秀頼さまの上洛など思いも寄らぬこと。徳川家はもともと豊家の家来ではないか。家康にせよ、秀忠にせよ、用もあらばそちらから出向いて来るがよい…いや、それでは手ぬるい。なぜ大坂城へ挨拶に参らぬのだ、そうきびしく責めてやるのじゃ。
この淀殿の妄動ぶりには、小説とはいえ言葉を失いますね…。
史実としても、結局秀頼の上洛は実現せず、家康の思い描いた、江戸と大坂は二つで一つという姿を世に示すことはできませんでした。
そして、時代は次の世代に遷り変わります。2代将軍に江戸の徳川秀忠が就任。
そして、大坂の豊臣秀頼は、それを快く思わぬ輩に囲まれて成長していくことになるのです…。