こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、徳川家康(8)心火の巻!信長落つ"本能寺の変"そして家康決死の逃避行"伊賀越え"です。
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■あらすじ
天正10年(1582年)6月、天下を揺るがす事件「本能寺の変」が起きます。
京都本能寺に滞在していた織田信長を、家臣の明智光秀が急襲したのです。
わずかな供回りしか帯同させていない信長は、大軍の光秀軍に包囲されると…。
はじめは自身も弓や槍を持ち抵抗しますが、ついには御殿の奥に籠り業火のなかで自刃…。
さらに光秀の刃は、このとき信長に招かれ堺にいた家康にも向けられます。
刺客が迫るなか、家康とわずかな家臣たちは三河への脱出を図ります。
伊賀を通って三河へ、夜を日に継いでひたすら駆け逃げる「伊賀越え」。
その道中は、落ち武者を狙う地侍や一揆衆が待ち構えていました…。
果たして、家康の運命はいかに?そして信長を失った戦国時代の行く末は…。
■本能寺の変
時代小説史に残る名著、山岡荘八「徳川家康」全26巻。
物語は第8巻に入り、戦国最大のクライマックスとも言える一大事件を迎えます。
そう、天下統一目前の織田信長を、家臣の明智光秀が襲った「本能寺の変」。
山岡荘八さんは、その凶事に至る光秀の心理状態から、信長の最期までを見事に描き切りました。
特に、信長の最期を描く本能寺のシーンは鮮やか…。信長も森蘭丸も最後まで命を燃やします。
ただ、個人的にもう一人、強烈に印象を刻んだのが、信長の正妻「濃」の最期でした。
「女どもは逃げよ」という信長の命に抗い、濃は信長のもとに残ります。
そして自ら薙刀を振るうと、蘭丸ら小姓とともに「時」を稼ぎます。信長の自害のための「時」を…。
しかし、多勢に無勢…。次々と押し寄せる敵方にいよいよ追い込まれます。
そのとき濃にこみ上げてきたのは、「尾張の大うつけ」と言われてきたときから連れ添ってきた信長への愛情でした。
(夫婦だった……)
いちど闘争の場にのぞむと、文字どおり生死を超えて闘うことしか念頭にないこの偉大な猛獣を、ついに誰にも渡さなかったのだ…
そして、彼女は信長に襲いかかる敵兵の前に、自らを楯にするが如くとび出します。
「今こそ死ぬとき」。濃は薙刀を繰り出しますが、敵兵の槍が濃の腹部を貫きました。濃は芝草のなかに倒れます…。
プーンと草の匂いが鼻に入り、首だけ立てて見ると中庭の芝原全体が青い水面に見えた。その水面に転々と倒れ伏した敵味方の死体が睡蓮の花をうかべたように目に移った。
この章に付されたタイトルは「地上の水連」。時代小説史に残る、美しくも悲しい戦国に生きた女性の最期です。
信長は、その眼を爛々と濃に注いだ後に、猛火に包まれる奥へ向かって歩きだしたのでした…。
■伊賀越え
そして、本能寺の変と並ぶ、同巻のもう一つのハイライト…。
それが、家康一行の逃避行。後に、家康の3大危機の一つに数えられる「伊賀越え」です。
(伊賀街道/写真より)
こちらも絶体絶命…。「信長死す」の報を受けて、家康一行は堺から伊賀を超えて三河への脱出を図ります。
しかし家康は信長の盟友…。その首を狙うのは、光秀だけでありません。道中には地侍や一揆衆たちも手ぐすねを引いていました。
物語のなかでも、狂い立ったようなおびただしい数の一揆衆が、家康一行の前に現れます。
家康は自ら、一揆の首謀者と交渉に当たります。殺気立つ彼らに対して、家康は「落ち着いて話してみよ」…さらに「褒美を取らそう」と語りかけたのです。そして…。
「仲間は守れよ。よいか、織田どのは討たれたが、このまま乱世は相成らぬ。わしの軍勢十万のほか、中国へ赴いている羽柴筑前が十数万も直ちに近畿へ引き返そう。それまでの間のみだれじゃ。武将に代わってな、よく仲間を守ってやれよ。さ、褒美を取らそう。忠次、黄金をこれへ持て…」
これだけ読むと、家康の「狸親父」ぶりが発揮されているように感じます。
実際に窮地を切り抜けるために、その場しのぎの巧言や黄金を使うことはあったのかもしれません。
しかし、「武将に代わって仲間を守れ」という不思議な言葉は、一揆に加わっていた百姓らの心を動かしました。
彼らは家康を助けることにしたのです。「やさしいお方を殺して、それよりひどい人に天下を取らせては、百姓どもがまた一生泣き続けねばならねえ」と。
(田園風景/写真ACより)
物語のなかで、家康はこの一件を通じて、これから自らが歩むべき道に大きな覚悟を持つようになります。
「民の声に従うほかに真理はない」。そして、形はどうあれ民衆の願いと同じく戦乱の世に終止符を打とうとした信長の継承者になろうと、決意を新たにしたのでした。
戦国の革命児・信長死す…。しかし、その意志を受け継ぐべく、家康が決意を固めました。
しかし、その信長の跡を継ごうと、いち早く光秀を斃した男がいました…。羽柴秀吉。後に家康の前に立ちはだかる豊臣秀吉、そのひとでした。
続きはまた、当ブログ「夢中図書館 読書館」にて綴ります。
ありがとう、山岡荘八さん! ありがとう、「徳川家康(8)心火の巻」!