こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、森見登美彦さんの作家生活10年の節目となる小説、「夜行」です。
■10年の集大成
帯にこんな言葉が書かれています。
「彼女はまだ、あの夜の中にいる。森見登美彦、10年間の集大成」
「太陽の塔」でデビューした森見登美彦さんの作家デビュー10周年小説、それが「夜行」です。
森見登美彦さんというと、「四畳半神話体系」や「夜は短し歩けよ乙女」など、ユーモラスな小説が多いように思いますが、今回の「夜行」は連作怪談です。
たしかに、「四畳半~」にしろ、「有頂天家族」にしろ、妖怪や怪異現象を描いてきた森見さん。
今回、「夜行」を読んでみて、いわゆるホラー系の物語を描くのが得意、というかもともと好きなのではないかと思いました。
■あらすじ
あらすじはこんな感じです。
京都で学生時代を過ごした仲間たちが、10年ぶりに京都鞍馬の火祭りに集まります。
実は10年前の火祭りの日、仲間の一人、長谷川さんが突然姿を消したのでした。
10年ぶりに仲間と会う日、大橋は偶然、長谷川さんに似た女性が一軒の店に入っていくのを目撃します。
その店は、岸田道生という画家が描いた「夜行」という連作の絵を展示している画廊でした。
大橋がその話しを他の4人に告げると、驚いたことに、それぞれが過去に「夜行」という絵に出会っているのでした。
そしてそれは本人たちにとっては触れられたくない記憶…。忘れ去りたい過去の出来事でした。
■「向こう側」の世界
「夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ」
謎めいた言葉。謎多き女性。謎めいた雰囲気が魅力の連作怪談です。
全5章。「尾道」、「奥飛騨」、「津軽」、「天竜峡」そして「鞍馬」。
仲間たちがそれぞれに不思議な体験を告白する形式で、章が構成されています。
共通するのは、それは旅先の夜の出来事であること。
そして、そこに登場するのは、長谷川さんと思しき謎の女性、そして岸田道生の絵「夜行」。
誰もが、その絵の中に引き込まれるように、その夜の場面に足を運びます。
「四畳半~」でもあった「向こう側」の世界が鍵を握っています。この辺は森見さんの得意の世界観ですね。
彼らが出会い、そして再び集う場所が古都・京都というのも森見さんの結界の中のよう。
「向こう側」の世界。それは、「昼」に対する「夜」の世界。「明」と背中合わせの「暗」…。
そして、いつの間にか、現実と虚構が混濁していきます。
彼らが出会ったのは誰だったのか。そして10年前に起きた出来事は何だったのか。
森見氏は、あるインタビューでこのように答えています。
「実は、デビュー前に自分が書きたいと思っていたのは「夜行」のような小説だったんです」
作家生活10年にして、ようやく書きたいものに辿りついたということでしょうか。長い「夜行」の旅でしたね…。
まさに作家生活10年の集大成。森見登美彦「夜行」。
一度手に取ってみてはいかがでしょうか。あなたも「夜行」の世界に連れ去られるかも…。
ありがとう、「夜行」!森見さん、10周年おめでとうございます!