こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、太田愛「犯罪者」!"あと10日逃げろ"迫り来る暗殺者…真の犯罪者とは?です。
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■あらすじ
白昼の駅前広場で4人が刺殺される通り魔事件が発生…。
犯人は逮捕されますが、ただ一人助かった青年・修司は見知らぬ男から「逃げろ。あと10日生き延びれば助かる」と警告されます。
その直後、謎の暗殺者に襲撃される修司…。危うく殺されかけますが、はみだし刑事・相馬によって間一髪命を救われます。
なぜ10日以内に修司は殺されるのか?相馬は友人の鑓水のもとに修司を匿い、3人で不可解な事件の謎を追っていきます。
やがて明らかになっていく通り魔事件の真相。無差別殺人と思われた事件の被害者には、ある共通点がありました…。
そして浮かび上がる、乳幼児の奇病「メルトフェイス症候群」、巨大企業タイタス・フーズ、大物政治家の関与…。
3人は暗殺者に追われながらも、ついに事件の核心を握る人物「佐々木邦夫」にたどり着きます。
果たして事件の真相は?事件の真犯人…真の犯罪者とは?3人は執拗に迫り来る凶刃から逃げ切ることができるのか…。
■太田愛
以前、太田愛さんによる「幻夏」を読んで、すっかり同著に魅了された館長ふゆき。
引き込まれるストーリー、魅力的な登場人物、手に汗握る予測不能な展開…。
テンポよくスリリングに物語が展開する様は、頁の奥に映像が浮かぶような極上の劇場型ミステリーでした。
著者の太田愛さんは、TVドラマ「相棒」や「TRICK2」などの脚本家としても知られる小説家。
映像作品のような鮮やかな場面描写は、そうした太田さんのキャリアのなせる業なのかもしれません。
もっと太田作品を読みたいと物色していたら、なんと「幻夏」に前作があることが分かりました。
それが2012年に出版された本作「犯罪者」。太田愛さんの小説家としてのデビュー作です。
たしかに、「幻夏」で活躍を見せた登場人物-相馬、鑓水、修司-は、なんでこの3人が一緒にやってんだろうという不思議な感じはありました。
彼らの強い絆には、この前日譚があったんですね…。3人の出会いにもつながる謎の通り魔事件を描いた作品「犯罪者」。太田愛さんの処女作です。
■犯罪者
ただ、単なる通り魔事件に終わらないのが、劇場型にして社会派でもある太田ミステリーの魅力。
「幻夏」では冤罪事件をテーマにしましたが、本作「犯罪者」では企業による隠蔽事件を鋭くえぐります。
乳児用食品に人体に影響を及ぼす食材が使用されていた…。相馬ら3人が事件解明を進めていく過程で明らかになっていく驚愕の事実。
しかし、その事実は企業の存続が優先されて、闇から闇に葬られます。決してあってはならないことだけど、どこかで聞いたことがあるような事件ですね…。
そんな現実にも起こり得る(起こっている)隠蔽事件を、太田愛さんが怒りのペンで問題提起。
大物政治家も絡んだ巨大企業の隠蔽事件を、社会のモラルともいうべき相馬らが暴いていく様は、頁をめくる指に思わず力が入ります。
さらに思わず緊張の力が入るのは、執拗に迫り来る暗殺者の存在。
はじめ登場したとき全身黒ずくめで「ダース・ベイダー」と称されますが、そのしつこさと殺戮能力はむしろ「ターミネーター」を彷彿させます。
このターミネーター暗殺者が本当に怖い…。修司や相馬らを幾度となく窮地に追い込みます。
ただ、もっと怖ろしいのはそれを裏で指示する善良な仮面を被っている権力者…。真の犯罪者は誰なのか。この辺りを太田さんが告発しているように思います。
物語のクライマックス、追い詰められた相馬らは、一発逆転の賭けに打って出ます。
その賭けとは?その成否は?そして手に汗握る犯罪者との戦いの結末は…。太田愛さんの傑作ミステリー「犯罪者」おススメです。
読み終えた後、この小説の表紙に描かれた母子を見て、ぎゅっと胸が締め付けられました…。
ぜったいに、この小説のような「犯罪者」を世にはびこらせてはいけませんね。
ありがとう、太田愛さん! ありがとう、「犯罪者」!