万城目学「趙雲西航」!三国志の英雄・趙雲が抱く不快の理由とは?

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こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。

今日の夢中は、万城目学さんの短編集「悟浄出立」の中から、三国志の英雄を主人公にした「趙雲西航」です。


悟浄出立

■あらすじ

ときは、かの「赤壁の戦い」から6年後
ところは、中国大陸を雄大に流れる長江を西へと遡る船上。

武将・趙雲は、原因不明の不快感に悩みます。
趙雲は、後に蜀の盟主となる劉備に仕える、武勇で知られる猛将。
今も、張飛、諸葛亮とともに船団を組み、主君・劉備の援軍として西航しているところです。

はじめは船酔いを疑う趙雲ですが、それにしては改善の気配がありません。
そんな彼の不快にまったく気づかぬ張飛と、ただ一人見抜いた諸葛亮。
彼らと何気ない会話を交わすうちに、唐突に趙雲は己の不快感の理由に気づくのです…。

趙雲が抱く不快の理由とは?
劉備と蜀を支えた勇将の心の奥底にあるものとは?

■三国志のワンシーン

万城目学さんの短編集「悟浄出立」
この短編集には、古代中国に素材をもとめた5つの短編が掲載されています。
以前、タイトルにもなっている「悟浄出立」について紹介しましたね。

今回紹介するのは、同短編集に収録されている「趙雲西航」
有名な三国志に登場する武将・趙雲を主人公としたショートストーリーです。

「三国志」とは、後漢王朝が滅びた後、魏・呉・蜀の三国が天下を争った歴史について記した史書です。
この時代に、きら星の如く英雄が登場しました。魏の曹操、呉の孫権、蜀の劉備、彼らを支える武将・軍師たち…。
有名な「三国志演技」に登場する人物は、なんと1,192人にもなるのだとか…。


三国志演技(1)

趙雲は、そんな数多くの登場人物のなかでも、特に人気のある武将です。
同「三国志演技」で"善玉"として描かれる劉備を支え、劉備亡き後も蜀を守り続けました。

この趙雲に、稀代のストーリーテラー万城目学さんがスポットライトを当てました。
なぜ万城目さんが趙雲を…?その理由が、短編集のあとがき「著者解題」に書かれていました。

多くの三国志ファンの例の漏れず私も、ときに勇将であり、ときに知将である趙雲が好きだった。
一方で、どれだけ戦場で活躍し、あるじ劉備の家族を命がけで救うことがあっても、劉備・関羽・張飛という鉄のトライアングルに割り込むことはできない趙雲のさびしさ、孤独というものを、物語の行間にふと嗅ぎ取ることもあった。

なるほど…。言われてみれば確かに。
後漢末期に挙兵した劉備は、関羽、張飛と三人で有名な「桃園の誓い」を交わして、義兄弟の契りを結びます。
しかし、そこに趙雲の姿はありません。

さらに劉備は、これまた有名な「三顧の礼」をもって、稀代の参謀・諸葛亮孔明を軍師にむかえます。
三顧の礼とは、目上の人が格下の者のもとに三度も出向いてお願いをすること。それほどまで、無名の諸葛亮を欲した劉備。
しかし、同じように、この場所に趙雲の姿はありません…。


三国志(39)横山光輝

関羽、張飛、諸葛亮、いずれにも劣らぬ活躍をしている趙雲
それにもかからず、劉備らと心を通わせる場面は驚くほど少ない…。

万城目さんが嗅ぎ取った、趙雲のさびしさと孤独
だからこの短編では、勇猛果敢な趙雲の活躍など一切描かず、ある船上のワンシーンを切り取って、趙雲の内面を掘り下げたのでしょう。

物語の最後に、その「さびしさと孤独」を拭い去ろうとするかのように、趙雲がある行動に出ます
それは、この短編の中で唯一、趙雲の勇猛な一面が垣間見られるシーンです。ただ一方で、その行動は、趙雲のさびしさと孤独をさらに強くあらわすものでした…。

ありがとう、趙雲! ありがとう、万城目さん!

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