こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、ホルモー六景「ローマ風の休日」楠木ふみを描く小さな恋の物語です。
「夢中図書館 読書館」は、小説や雑誌などの感想や読みどころを綴る読書ブログです。あなたのお気に入りの一冊を見つけてみませんか?
■ホルモー六景
万城目学さんのデビュー作「鴨川ホルモー」。
京都の大学生たちが、小さなオニを操って戦う奇妙奇天烈な競技「ホルモー」…。
そのホルモーを通じて主人公らが成長していく姿を描く青春ファンタジー小説。
万城目ワールドの原点として燦然と輝く傑作です。
そのスピンオフとなる短編集が「ホルモー六景」です。
「六景」のネーミング通り、6編の短編が収録されています。
今日とり上げるのは、その中の一編、「ローマ風の休日」です。
「凡ちゃん」こと楠木ふみのサイドストーリー。バイト先で出会う高校生の視点で描く小さな恋の物語です。
■あらすじ
その人がやって来た日のことを、今でもよく覚えているー。
高校生の聡司は、イタリアンレストランのバイトにやって来た不愛想な女性に、あまり良い印象を持てませんでした。
その女性の名前は、楠木ふみ…。
ずいぶんと膨らみのある髪形をして、やけに面の広い黒ぶちメガネをかけた女性でした。
しかし、店長不在という緊急事態となったあるバイトの日。
彼女がテキパキと職場を仕切って修羅場を乗り切ると、スタッフの評価は一変。聡司も彼女に好意を持つようになります。
そして聡司は、数学の宿題を教えてもらうという口実で、彼女をデートに誘います。
その宿題とは、京都の9つの橋を一筆書きでまわれるかという問題。実際に歩いて解いていく途上、2人は閻魔大王ゆかりの寺社に向かうことになるのですが…。
なぜ、ふみはその寺社に行きたかったのか。数学の問題は解けるのか。聡司の小さな恋の顛末は…。
京都の街を自転車で全速力で駆け抜ける2人…。ある夏の日の甘酸っぱい青春の一頁です。
■見どころ
本編「鴨川ホルモー」で強烈なインパクトを残したヒロイン、「凡ちゃん」こと楠木ふみを描くサイドストーリー。
バイト先の先輩アルバイターで高校生の聡司の視点で、彼女の天然な魅力が描かれます。
本編では、クセが強くて取り付く島もない感じだった「凡ちゃん」。
でも実は、人と話すのが苦手で、それを変えようと努力していて、好きな人がいるけど、臆病で打ち明けることができない…。そんな風な、とても普通な女の子であることが分かります。
聡司が次第にふみに好意を抱くようになる姿は、本編の主人公・安倍の姿とラップします。
むしろ、聡司の恋心のほうが先だったのですね…。彼がふみをデートに誘ったことが、本編のエピソードにつながっていきます。
そう、本編でふみが安倍をデートに誘うシーンがあります。あれには、この前日譚があったんだ…。がんばったんだな、凡ちゃん…(涙)。
この他にも、本編を読んだ方は、にんまりとするような伏線が描かれています。
時系列としては、本編のクライマックス「第17条ホルモー」が発動された後の話し。
本編を読んだ人は、このときふみがどんな状態にあるか、なぜ夜を怖がるのかも分かるはず。そう、彼女の周囲には、奴らがいたのです…。
そして迎えるこのサイドストーリーのラストシーン…。
それは、本家「ローマの休日」のように、切ないラストになるのです。泣くな、少年!それが青春だ!
「鴨川ホルモー」スピンオフ、楠木ふみに恋に落ちちゃう物語「ローマ風の休日」。
本編を読んだ人も、読んでいない人も、万城目学さんが描く小さな恋の物語に没入してみませんか?
ありがとう、万城目学さん! ありがとう、ローマ風の休日!