こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、徳川家康(7)颶風の巻!家康に吹きつける暴風…長篠の戦いと信康事件です。
「夢中図書館 読書館」は、小説や雑誌などの感想や読みどころを綴る読書ブログです。あなたもお気に入りの一冊を見つけてみませんか?
■あらすじ
天正3年(1575年)、武田勝頼が三河に侵攻、長篠城に攻め寄せます。
迎え撃つ徳川家康のもとには、織田信長が自ら大軍を率いて援軍に駆け付けました。
そして迎える両軍の戦い…。押し寄せる武田騎馬軍に対して、信長は大量の鉄砲隊による一斉射撃を浴びせます。
前代未聞の戦術により、武田騎馬軍は壊滅…。長篠の戦いは、織田・徳川連合軍の圧勝に終わりました。
一方、徳川家中でくすぶっていた不穏な動きが、信長の耳に入ります。
家康の嫡男・信康の乱暴不行状の数々、妻・築山殿の武田への内通…。信長は2人の切腹を命じました。
大いに揺れ惑う家康の心…。果たして、家康の決断は?
戦国の世はかくも哀しく厳しく、人々の運命を呑み込んでどこに流転していくのか…。
■長篠の戦い
時代小説史に残る名著、山岡荘八「徳川家康」全26巻。
その第7巻「颶風の巻」。「颶風」(ぐふう)とは、強く激しい風、暴風のことです。
まさにその巻名のとおり、この時期は家康にすさまじい風が吹きつけます。この巻で描かれる時代(年表)は次の通りです。
天正3年(1575年) 織田信長と連合し、長篠の戦いで武田勝頼を撃破
天正7年(1579年) 正室・築山殿を殺害、嫡男・信康を自害させる
天正9年(1581年) 高天神城を落とし遠江を平定
天正10年(1582年) 武田勝頼死す(武田氏滅亡)
その「颶風」の文字が登場するのが、武田軍と織田・徳川連合軍が激突する長篠の戦いです。
この巻のハイライトにして、戦国のハイライトでもある戦い。奇襲を仕掛けた徳川方の大久保軍に対して、戦国最強と言われる武田騎馬軍が襲いかかります。
合戦開始-と、いうよりも、それは徒士ばかりの大久保勢を踏みつぶすために二千の騎馬武者が捲き起こす颶風の合図であった。
「今だ。柵を踏みつぶせ!」「蹴ちらして信長の本陣へ殺到しろ」。山県昌景率いる騎馬軍が馬防柵の前に殺到したその時でした。
ダダダーン…信長の伏せてあった千挺の鉄砲が一斉に火を噴いたのです。
一瞬あたりはシーンとした。硝煙のゆるく西に流れ去ったあとの柵前には、主人を失った馬だけが、キョトンと取残されて、人の数は数えるほどしか残っていなかった。
織田・徳川連合軍の圧勝…。その結果以上に、この戦いはこれまでの合戦の常識を変えるものとして歴史に刻まれました。
武田方の名だたる勇将猛将に対し、信長は「名もない鉄砲足軽で立ち向かわせ、有無を言わさず団体戦で対抗して勝を制していった」のです。
この結果、いかに駿足の騎馬武者に対しても、鉄砲さえあれば足軽の集団でこと足るという戦術上、思想上の一大革命がなしとげられた。
■信康事件
そんな長篠の戦いにおける歴史的な勝利から間もなくして、家康の内部にとんでもない「颶風」が吹き荒れます。
織田信長から、家康の嫡男・信康と正妻・築山殿の切腹を言い渡す命令が下ったのです。
信長から突きつけられる、わが子信康の乱暴不行状の数々…。そして、妻築山殿の武田氏への内応疑惑…。
初めて耳にするものすらある12か条の不審状に、家康は驚愕しました。曰く「自分の躰に、ぬきさしならない大くぎを打込まれてくるような感じであった」。
悩みに悩み、打開を図るも信長の決心を変えるに至らなかった家康は、ついに決断します。
家康は浜松から、信康が城主を務める岡崎へ出立。そして、信康に岡崎城を追放、謹慎を命ずると、後に切腹を言い渡すのでした…。
両者が最後に対面するシーンは、本巻のクライマックスです。謹慎中の信康(三郎)が百姓姿で、豪雨の中を忍んで家康のもとにやって来ます。
それはただ一つ、自身が武田方に内応したことはない、それを父に信じてほしいという一心からでした。「不肖であれこの三郎…お父上の子でございまする」。
すみません、小説とはいえ涙してしまいました…。一方で、正妻の築山殿の態度は、小説とはいえ許しがたいものした。
何しろ、あんな振る舞いもこんな振る舞いも…。「前代未聞の悪妻」…そのように家臣から陰口を言われるほど傲慢でした。
結局最後まで改心することなく、家康を恨みぬきます。そして迎える最期は何とも哀れなものでした…。
この小説で描かれる瀬名(築山殿)を見たら、大河ドラマ「どうする家康」ファンは卒倒しちゃうんじゃないかしら…。
もちろん、これらはあくまで小説の出来事…。史実がどうであったか詳細は分かりません。
それでもこの時期、家康に大きな「颶風」が吹き荒れたのは事実…。そしてそれは、家康だけでなく、やがて信長にも吹き付けることになるのです…。
この続きはまた、当ブログ「夢中図書館」にて綴っていきます。
ありがとう、山岡荘八「徳川家康」! ありがとう、第7巻「颶風の巻」!