こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、万城目学さんの小説「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」を紹介します。
■あらすじ
かのこちゃんは、小学一年生の元気な女の子。
マドレーヌ夫人は、かのこちゃん家に紛れ込んできたアカトラの猫。
その出会いは、ゲリラ豪雨が襲ったある日。
かのこちゃん家の老犬・玄三郎の犬小屋に逃げ込んできたのが、後にマドレーヌと名付けられる猫でした。
かのこちゃんとマドレーヌ夫人は、言葉は通じないものの、不思議に互いの気持ちが分かる間柄。
かのこちゃんは、マドレーヌ夫人と玄三郎が夫婦であることに気づいて、できるだけ一緒にいれるように心配りします。
マドレーヌ夫人は、そんな心やさしいかの子ちゃんに恩返しをしようと、ある日思い切った行動に出るのですが…。
それぞれに訪れる嬉しい出会いと、それぞれに訪れる悲しい別れ…。
かのこちゃんとマドレーヌ夫人。仲良しなふたりの愉快で不思議な物語がはじまります。
■かのこちゃんとマドレーヌ夫人
「鴨川ホルモー」や「鹿男あをによし」などの作品で知られる万城目学さん。
摩訶不思議で壮大なスケールの物語を紡ぎ出す、稀代のストーリーテラーです。
その万城目学さんが、「日常の中で不思議なことが起こる話も書いてみたい」とペンをとりました。
異次元の万城目ワールドではなく、とある家族の何気ない日常が舞台となる物語。それが本作、「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」です。
主人公は、小学一年生の女の子、かのこちゃん。
近くの公園で駆け回っていそうな、ちょっとやんちゃで好奇心旺盛な女の子です。
このかのこちゃんがとてもチャーミング。
ある日突然「ちえがひらかれた」(原文より)かのこちゃんは、手当たり次第に外の世界にあるものを知りたがります。
男子との「どちらが難しい言葉を知っているか」勝負では、「いかんせん!」「ほとほと!」「やおら!」「たまさか!」などを連発。
その勝負で「茶柱」という言葉を知ると茶柱が立つまで何杯もチャレンジしたり、夏休みの自由研究ではマドレーヌ夫人を追いかけて散歩地図をつくったり。その真っすぐな性格は、ほんと可愛らしい…。
もうひとりの主人公が、かのこちゃん家に住まう猫・マドレーヌ夫人。
お菓子のマドレーヌと毛色が似ていることから名付けられたアカトラ猫です。
このマドレーヌ夫人もとても魅力的です。
万城目版「吾輩は猫である」のように、夫人の目線で猫社会が描かれるのですが、これがなんともシュールで面白い…。
そもそも、「夫人」と呼ばれるのは猫社会だけ。人間社会では「マドレーヌ」です。
その理由の一つは、外国語を話すことができるから。人間の言葉や犬の言葉が理解できることから、周りの猫たちから「マドレーヌ夫人」と尊敬の念を込めて呼ばれるようになりました。
この特殊能力があることが、ちょっぴり不思議でハートウォームなエピソードを生み出していくことになります。
この辺りは、万城目ワールドの面目躍如。「鶴の恩返し」ならぬ「猫の恩返し」とも言うべきハイライトにつながっていくのです…。
■3つの別れ
物語は、児童文学のような、ほのぼのとしたテイストで進んでいきます。
基本はコメディで、全編を通して温かな笑いに包まれるのですが、ときに胸にグッとくるシーンがあります。
それが、かのこちゃんとマドレーヌ夫人に訪れる、3つの別れです。
1つは、かのこちゃんと親友すずちゃんとの別れ。
かのこちゃんは「ふんけーの友」(原文より)すずちゃんからある日突然、転校することを伝えられます。行先は遠く海外…。
かのこちゃんは「こんどの日よう日、じんじゃのおまつりであいましょう」と手紙を書きますが、渡せないまま日曜日をむかえます。
お父さんとお祭りに出かけるかのこちゃん。引越し準備に追われるすずちゃん。果たして2人は最後のお別れをすることができるのか…。
2つ目の別れは、老犬・玄三郎さんとの別れ。
玄三郎は、マドレーヌ夫人より先にかのこちゃん家に変われていた柴犬です。
ゲリラ豪雨の日、犬小屋に逃げ込んだ猫(マドレーヌ夫人)を見つけると、自分はずぶ濡れのまま見守りました。
そのことがきっかけでふたりは夫婦になるのですが、やがて玄三郎は不治の病に冒されます。
これまでの感謝の思いを込めて、マドレーヌ夫人はある行動に出ます。そしてそれは、一つめの別れにもつながる、ある奇跡を呼んでいくのです…。
3つ目の別れは、かのこちゃんとマドレーヌ夫人。
見えない強い絆で結ばれたふたりにも、別れのときがやってきます。
どうしてふたりは別れないといけないのか。外された珊瑚色の首輪の下に置かれたものとは。
それは、かのこちゃんからマドレーヌ夫人へのかけがえのない贈りものでした…。
とても楽しくて、ときに不思議で、そしてところどころ胸が詰まる…。
かのこちゃんとマドレーヌ夫人の心温まる物語。夏休みにページをめくってみてはいかがでしょうか。
ありがとう、かのこちゃん! ありがとう、マドレーヌ夫人! ありがとう、万城目学さん!