こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、高橋克彦「炎立つ」!奥州藤原氏はなぜ戦い、如何に散ったのか…。
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■あらすじ
ときは平安時代末期。ところは東北陸奥の地…。
陸奥国で一大勢力を築いた頼時(頼良)・貞任ら安倍一族。
彼らの願いは、中央の支配から離れて、人々が安らかに暮らせる楽土をつくること…。
しかし、中央はそれを許しませんでした。
東北の民を「俘囚」と蔑み、私欲・権勢欲を満たすために奥六郡に攻め入りました。
前九年の役、後三年の役…。陸奥国に壮絶な戦乱が巻き起こります。
安倍一族は滅ぼされ、楽土の思いに共感して彼らに与した藤原経清も討ち取られます。
しかし、安倍一族の願いは、その経清の子らに受け継がれ形を成します。
藤原清衡、基衡、秀衡…。奥州藤原三代による統治のもと、東北平泉に楽土が築かれたのです。
安倍一族から奥州藤原氏へ。男たちが思いを繋いででつくり上げた平泉。しかし…。
源頼朝、義経、藤原泰衡…。さまざまな因縁が絡み合い、再び陸奥に戦いの炎が立ちます。果たして、東北の楽土は守られるのか…。
■奥州藤原氏の興亡
「炎立つ」(ほむらたつ)。
高橋克彦さんによる長編時代小説。単行本では全5巻の大作です。
1巻「北の埋み火」、2巻「燃える北天」、3巻「空への炎」は、奥州藤原氏の祖である藤原経清が主人公。
朝廷から官位を授かる人物ですが、安倍氏のもとに走ると、朝廷軍である源頼義・義家親子と戦います(前九年の役)。
4巻「冥き稲妻」は、その経清の遺児・藤原清衡が主人公。
安倍氏に代わって陸奥を治める清原一族の争い(後三年の役)を生き抜き、奥州藤原氏の初代当主となる物語が描かれます。
5巻「光彩楽土」は、さらに時代を下って、清衡の曾孫・藤原泰衡が主人公。
奥州平泉が庇護する源義経と兄頼朝の確執が、再び陸奥を争いに巻き込みます…。そのとき泰衡が下した決断は…?
壮大なスケールで描かれる東北戦国絵巻。
平安時代末期から鎌倉時代初期まで、奥州藤原氏代々の当主らに焦点を当て、その活躍と葛藤が描かれます。
歴史好きとしては、源頼朝や義経など名のある武将が登場する5巻「光彩楽土」に目が行きます。
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代とも重なりますし、あらためて読むと新しい発見もありました。
平泉はなぜ義経を庇護したのか。頼朝はなぜ平泉に攻め入ったのか。そして、泰衡はなぜ平泉を捨てたのか…。
特に物語のラスト、泰衡と義経の最期の対面の場面は胸を打ちます…。義経の無念も、泰衡の気持ちも分かるんだけどなぁ…。
■藤原経清
ただ、本編を通じて最も鮮烈に記憶に刻まれたのは、物語前半の主人公・藤原経清です。
このひと、この物語を読むまで知りませんでした…。
藤原経清は、奥州藤原三代の初代・清衡の実父。
都から従五位という重職に任じられながら、前九年の役ではそれを投げ打って陸奥の安陪側に走ります。
それは、安倍一族が、朝廷の成し得なかった「民の求める国家の実現」を追い求めているからでした。
私欲や権勢欲に眼がくらんで大義すらすり替える中央のやり口に、経清は一人の人間として強い憤りを感じていたのです。
後に奥州藤原氏の当主に就く秀衡も同じ思いを口にします。
「蝦夷がいったいなにをした?たった一度でも蝦夷から内裏に牙を剝いたことがあるのか?いつのときも降り掛かる火の粉を払っただけぞ。そういう我らを内裏は憎み、敵と見做し続けた」。
中央は、陸奥の民を「俘囚」あるいは「蝦夷」と蔑みました。同じひとと思わなかったのです…。
今の世もこうした悲しい差別はありますね…。それが戦いを招くこともしばしば。どうして人は歴史から学ばないでしょうか…。
経清はいち早く、朝廷の理不尽と陸奥の思想の尊さに気づきました。地位も官位も投げ打って、陸奥の民のために果敢に戦う姿は、いま見ても魂が揺さぶられます。
彼の前に立ちはだかるのは、権勢を欲する源頼義…。両者の戦いは、後に前九年の役と呼ばれる長期の戦乱となるのです。
さらに、そこから約130年後に、再び源氏と藤原氏は相対します。
源頼朝と藤原泰衡…。頼朝は陸奥の民を蝦夷と蔑み、自分ではなく弟義経を選んだ奥州藤原氏を恨みました。ほんと、自己中心的ですよね…。
そんな頼朝を、人の感情を持たない「鬼」と、平泉方は恐れ警戒します。
果たして両者の戦いの行方は?藤原経清、清衡、泰衡らが求めた、東北の楽土は守られるのか…。
全5巻の大作ですが、読み始めたらあっという間。興奮冷めやらぬまま、楽土実現に生きた男たちの物語を読み切りました。
「鎌倉殿の13人」でも描かれるであろう、頼朝と義経の確執、そして頼朝による東北平泉侵攻。
果たして正義はどちらにあったのか…。胸に突きつけられる物語です。
ありがとう、「炎立つ」! ありがとう、高橋克彦さん!