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館長のふゆきです。
今日の夢中は、今村翔吾「童の神」!酒呑童子は本当に凶悪な鬼だったのか?異説・酒呑童子伝説です。
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■あらすじ
ときは平安時代。京人から「童」と呼ばれ、あらぬ差別を受ける人々がいました。
彼らは、朝廷の支配に屈しない土着の民…。ときに、鬼、土蜘蛛、滝夜叉などと蔑まれました。
そのひとり、桜暁丸(おうぎまる)は、凶事の日に生まれ、目や髪の色が他のひとと異なっていたことから、「禍の子」と呼ばれ育ちます。
桜暁丸は、父と村を奪った京人への復讐を誓い、京の町で武官らを次々と襲撃。「花天狗」と恐れられるようになります。
桜暁丸の行動の理由は、奪われたものを奪い返すだけ…。なぜ我らが蔑みを受けなければならないんだ…そんな思いが彼を動かしました。
やがて桜暁丸のもとに、次々と同じ境遇の仲間…「童」たちが集まります。そして、共に朝廷と戦うことを誓うのです。
桜暁丸は、京人から「酒呑童子」と恐れられます。同じく、仲間たちにも、茨木童子や熊童子、虎熊童子などの呼び名が…。
一方、朝廷側は、源頼光を筆頭に、渡辺綱、卜部季武、碓井貞光、坂田金時の四天王が立ちはだかります。
果たして両者の対決の行方はいかに…。桜暁丸の望む差別のない社会は訪れるのか…。
■酒呑童子伝説
世に伝えられる平安時代の鬼退治…酒呑童子伝説。
京の町を荒らした酒呑童子ら鬼の一族を、朝廷に仕える源頼光とその四天王が討ち果たした…。
そんな歴史の定説に今村翔吾さんが、全く異なる視点を投げかけました。
酒呑童子ら鬼とされた者たちは、本当は罪のない土着の民だったのではないか。それをときの朝廷が不当に差別したのでは…。
今村翔吾さんは、そんな風に思いを馳せた理由について、「童」(わらべ)という言葉の意味を挙げています。
今と同じ「子ども」を表す前は、「奴隷」という意味で使われていたというのです。その意味が変わり出したのは、平安時代から鎌倉時代にかけてでした。
そこから発想をふくらませた今村さんは、酒呑童子伝説に関わる史料ををつぶさに調査。
多くの史実や地方の伝承などを綴り合わせながら、これまでの酒呑童子伝説とは全く異なる本作「童の神」を上梓しました。
本誌の中でも、そうした今村さんの着想の跡を示す、象徴的なやり取りがあります。
年長者の毬人が「童」という言葉の意味について語ります。それは「重荷を担ぐ奴隷」という意味であること、「京人の驕り、蔑みの証しと言える字」であること。そして…
毬人「ところで童という字、お主ならばどのように変える」
桜暁丸「純なる者。いつだって我らはそうだったはずだ」
■この国に問う。人はどうあるべきかを
思わず、「がんばれ酒呑童子!」と叫びたくなります。そんな場面が多数…。同じく、「くたばれ源頼光!」と歯ぎしりする場面も…。
こんな酒呑童子の物語がこれまであったでしょうか…。ただ、それほど酒呑童子こと桜暁丸の言動は清々しく力強い。
いつの間にか引き込まれてしまうのは、戦いの描写が臨場感あふれているからだけでなく、その戦う理由が今の時代に通じる不変のテーマだからでしょう。
人種や肌の色、性別や出自などによる差別や偏見…。曰く「話し合っても、媚びても、願っても、祈っても決して変わることのない迫害。いつまで耐えればよいのか」。
朝廷の襲撃によって仲間を失い、さらに無辜の民にまで被害が及ぶに至って、ついに桜暁丸が宣言します。
「全ての童と呼ばれる者たちへ檄を飛ばす。この国に問う。人はどうあるべきかを」
心ふるえますよね…。いまの時代の指導者たちにも檄を飛ばしてほしい…。
そして迎える最終局面。まさに「この国に問う」ごとく、桜暁丸ら「童」たちは大江山から京の町に降りたちます。
彼らは無防備でした…。それは、戦うためではなく、差別のない社会に向けて一縷の望みをつなぐ決死の行動だったのです。
そして迎える、今村翔吾の著作史上最も感動的なシーン…。そして、最も切ない結末へ…。
誰もがそのラストに胸が詰まるはず…。果たして、酒呑童子ら差別のない社会を求める「童」の運命はいかに…。
なお、「あとがき」で今村さんは、本作を三部作とすることを表明しています。「童の神」はその第二部なのだとか。
第一部も第三部も楽しみですね。まさに、平安京のスター・ウォーズ・サーガ…。出版されたら、必ず読みます。
今日の夢中は、今村翔吾「童の神」!酒呑童子は本当に凶悪な鬼だったのか?異説・酒呑童子伝説でした。
ありがとう、「童の神」! ありがとう、今村翔吾さん!