こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、浅田次郎さんの傑作時代小説、「壬生義士伝」です。
■あらすじ
ときは幕末、慶応4年(1868年)。
小雪の舞う1月の夜更けに、大阪・南部藩蔵屋敷に満身創痍の侍が飛び込んできました。
彼の名は、吉村貫一郎。
南部藩の下級武士として生まれ、貧しさから藩を脱藩。新選組に入隊し、「人斬り貫一」と恐れられている男でした。
剣の腕前は北辰一刀流免許皆伝。ただ、その性格は人に優しくいつも穏やか。
彼が人を斬る理由はただひとつ、故郷で貧困にあえぐ妻と子供たちへの仕送りのためでした。
壬生狼と恐れられた新鮮組も、時代の流れには逆らえず、鳥羽伏見の戦いで敗走。
深手を負った貫一郎は、何としても家族の待つ故郷に帰ろうと、南部藩蔵屋敷を訪れたのでした。
屋敷を取り仕切るのは、貫一郎の旧知の友、大野次郎右衛門。
邂逅もつかの間、大野は貫一郎に、非情にも切腹を命じたのでした。
物語はそこから、2つのシーンが交互に展開していきます。
切腹を命じられた貫一郎が遠く故郷の家族に対して思いを語るシーン。
そして、時が流れて貫一郎ゆかりの人物が彼との思い出を振り返るシーン。
やがて明かされる貫一郎と家族の壮絶な生き様…。
なぜ貫一郎は死ななければならないのか。なぜ大野は切腹を命じたのか。
義とは?侍とは?家族とは…?「死ぬな、吉村!」。その声は届くのか。
■壬生義士伝
壬生義士伝。
言わずと知れた浅田次郎さんの代表作にして超名作。
実はこの作品が、浅田次郎さんにとって初の時代小説です。
週刊文春に1998年9月から2000年3月まで連載され、2000年に単行本が発行されました。
2003年に、中井貴一さん主演で映画化もされています。
名匠・滝田洋二郎監督がメガホンをとった同作品は翌年の日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞しました。
小説も映画も良かった…。どちらも号泣しました。
何よりも、ベースとなるストーリーが力強い。誰もが、幕末に生きた石割桜・吉村貫一郎に引き込まれます。
そしていつの間にか心の声を発するはず。「死ぬな、吉村!」と。
■泣ける感動シーン3選
そんな名作「壬生義士伝」。個人的な感涙シーン3選を紹介します。
※ネタバレになる箇所がありますので、ご注意ください。
1.死ぬな、吉村
まずは、押し寄せる薩長の大軍に対して、ただ一人で立ち向かう貫一郎。
その姿を見て、新選組三番隊組長・斎藤一が叫びます。「死ぬな、吉村」、と。
斎藤一は全身刃物のような危険な人物で、貫一郎との出会いも最悪。
風采の上がらない田舎侍の貫一郎に嫌悪感を覚えると、出会ったその日に斬りつけています。
そんな斎藤も次第に貫一郎に引かれていきます。
斎藤の嫌った田舎侍は、あまりに純粋で、誠実でした。不器用にも家族のために生きようとするその姿は、侍の良心でした。
あの男だけは殺してはならない…。最後の最後に斎藤は自らの本心を声にします。「死ぬな、吉村」、と。
2.この体をば…
続いては、貫一郎の回想シーンの中から、妻しづが入水自殺しようとする場面。
妻しづは3人目の子供を身ごもります。しかし、親子4人が雑炊をすすってやっと越す冬を、赤子を抱えて乗り切れるわけがないと、彼女は思いつめたのでした。
すんでのところで貫一郎は、沼の深みに踏み込もうとするしづを岸辺に引き戻します。
そのときのしづの言葉が衝撃です。「この体をば、食ろうてくらんせ」。
言葉を失う貫一郎…。叱ることも、慰めることもできず、しづを抱きしめました…。
このとき、貫一郎は脱藩を決意しました。
それは、彼を悲運の人生に導くものでしたが、家族を救うためにはそれしか選択肢がなかったんですね…。
3.食え、貫一
そして、物語の終盤、大野が貫一郎の体を抱きかかえるシーン。
大野は切腹を命じる鬼の仕打ちの陰で、自ら握り飯をにぎって貫一郎に届けます。
しかし、その握り飯は手つかずのまま、貫一郎は…。大野はその体を抱きあげて語りかけます。
「食え、貫一。しづも嘉一郎も、お前のおかげで腹は一杯じゃ。んだば、お前が食え。(中略)のう、後生じゃ貫一、今一度この目ば開けて、南部の百姓が丹精こめて作った米ば、腹一杯食ってけろ。のう、貫一、後生じゃ…」
涙とともにしぼり出す声…。
幼い頃から互いを「貫一」「次郎衛」呼び合う、かけがえのない親友2人の別れのシーンでした。
号泣です…。
他にも名シーン、感動シーンがたっぷり。
ところを選ばないと、小説を読みながら涙してしまうので要注意です。
名作は死せず…。今日の夢中は、傑作小説「壬生義士伝」でした。死ぬな、吉村!
ありがとう、壬生義士伝! ありがとう、貫一郎…!