こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、永井路子「炎環」!鎌倉殿の舞台裏…愛憎の炎が環る4人の物語です。
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■あらすじ
ときは、鎌倉幕府の草創期…。
源頼朝の挙兵、源平の戦い、日本初の武家社会成立へ、時代は大きく動いていました。
時代の大きなうねりに、ある者は翻弄され、ある者は秘めた野望を露にします。
やがて、鎌倉幕府成立という華々しい舞台の裏で、それぞれの思惑ひしめく陰謀が繰り広げられるのでした…。
阿野全成(あのぜんじょう)。
頼朝の異母弟で、幼くして出家させられましたが、頼朝挙兵に応じで寺を抜け出し馳せ参じます。
頼朝の妻政子の妹保子と結婚。忠実な御家人として将軍家に仕えますが、やがてその野望をあらわします…。
梶原景時(かじわらかげとき)。
石橋山の戦いで、平家方の将にもかかわらす頼朝の命を救い、頼朝再挙後は重用され寵臣となりました。
頼朝の意を受け有力武将の暗殺に手を染めますが、そのやり口は御家人らの反発を呼び、やがて窮地に陥ります…。
北条保子(ほうじょうやすこ)。
頼朝の妻政子の妹。頼朝の異母弟・阿野全成に嫁ぎ、後に3代将軍となる源実朝の乳母となります。
明るい性格で他愛もない噂話に花を咲かせますが、それはときに大きな悲劇をもたらします。本当にそれは罪のないお喋りだったのか…。
北条義時(ほうじょうよしとき)。
挙兵時から頼朝に近侍。どんな難事でも常に頼朝を支え、後に2代執権として幕府を実質的に差配しました。
3代実朝が暗殺されると、京の支配者後鳥羽上皇から義時追討の宣旨が発布されます。朝敵となった義時、彼が執った選択肢とは…。
4人はどのような運命をたどるのか。陰謀うごめく鎌倉で、生き残ることができるのは、果たして誰なのか…。
■炎環
永井路子さんの名作歴史小説「炎環」。直木賞受賞作です。
短編集の形式をとっていますが、それぞれが連環していて、短編集ながらも長編小説のような体裁となっています。
この小説は4人の男女を主人公に、4つのストーリーが織りなされます。
はじめに、頼朝の弟・阿野全成を主人公にした「悪禅師」。
続いて、頼朝の寵臣・梶原景時に焦点を当てた「黒雪賦」。
さらに、北条政子の妹・保子の半生を描く、その名も「いもうと」。
そして、頼朝を補佐し、ついに2代執権の座に就いた北条義時を主人公とした「覇樹」。
どれもこれも、歴史の表舞台では語られないストーリー。
「こんなことがあったのか!」と驚愕する権謀術数の数々が描かれます。
それぞれで描かれる主人公も、これまで歴史の表舞台で目立つことのなかった人物です。
阿野全成は、源頼朝の異母弟、源義経の同母兄なのですが、この2人に比べると知名度は大きく劣ります。
北条義時だって、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で一躍脚光を浴びていますが、それまではほとんど知られていない人物。
梶原景時も、その「鎌倉殿の13人」に名を連ねる有力御家人ですが、よほどの歴史通でなければ知らないのではないでしょうか…。
■いもうと
その中でも、ひと際異彩を放っているのが、北条保子でしょう。
その短編のタイトル通り、北条政子の「いもうと」にして、阿野全成の妻。さらに、3代将軍実朝の乳母を務めています。
この保子、他の3人の短編にも随所に登場するのですが、ほんと底抜けに明るいお喋り女子。
しかし、歴史は女性が動かします…。永井路子さんは、この名もない「いもうと」に注目しました。
屈託のない笑顔の影で、保子は姉政子を貶めるように怪しげな動きを見せます。どこにそれほどの恨みを秘めていたのか…。
特に背筋が凍ったのは、政子の長女・大姫に対するひとこと。
大姫は6歳の時に、源(木曾)義仲の長男で11歳の義高と結婚します。
完全な政略結婚でしたが、大姫と義高は互いに惹かれ合い、幸せな日々を送ります。
しかし、頼朝と義仲の関係が破局すると、頼朝軍は都の郊外で義仲を討ち取りました。
頼朝は将来の禍根を絶つべく、義高の殺害を命じます。政子は義高を女装させて逃がしますが、間もなく討ち取られました…。
こうした事情を知らない大姫は、義高の行方を懸命に探りますが、誰も本当のことを教えてくれません。
その大姫に対して、真実を告げたのが保子でした。保子は、義高が大姫の父・頼朝によって殺されたことを明かします。
「義高さまはお逃げになった。でもやっぱり駄目でした。…(中略)…ずたずたに斬りさかれて、転げまわって、首を刎ねられて…」
保子さん、言い方ってのがあるでしょ?大姫はまだ7歳なんだから…。小説とはいえ、突っ込みたくなります。
ただ史実においても、その後大姫は、悲嘆のあまり水も喉を通らなくなるほど憔悴。やがて悲劇的な最期を迎えることになるのです…。
さらに保子は、将軍家を揺るがす陰謀をはかります。何しろ、頼朝の弟の妻、3代将軍実朝の乳母ですから…。
そして政子はついに、保子の笑顔の裏に秘められた冷たい野心に気づくのです。そのとき政子は…姉妹はどうなるのか…。
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、この保子(ドラマでは「実衣」)を宮澤エマさんが演じています。
屈託のない小悪魔的なキャラとしては適任かもしれませんが、ドラマでこの後どうなるか、楽しみでもあり怖くもあります。
今日の夢中は、永井路子さんの直木賞受賞作「炎環」。
「鎌倉殿の13人」と重なる登場人物と時代設定。大河ドラマの予習にぴったりですが、だからこそ危険な書でもあります。
これからドラマでも描かれるでもあろう、決して華やかではない鎌倉殿草創期の物語。その舞台裏を、あなたも勇気を持って覗いてみませんか?
ありがとう、炎環! ありがとう、永井路子さん!