こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、宮城谷昌光さんの中国春秋時代の名君の波乱にとんだ人生を描いた小説「重耳」です。
■宮城谷昌光
宮城谷昌光(みやぎたにまさみつ)。
古代中国を舞台にした小説を得意とする、時代小説家です。
代表作に「重耳」や「晏子」、「孟嘗君」などがあります。
館長ふゆきの大好きな作家のひとり。「孟嘗君」については以前、当「夢中図書館 読書館」でも紹介しましたね。
今日紹介するのは、「孟嘗君」の活躍した戦国時代から400年ほど遡り、中国春秋時代を舞台にした小説「重耳」です。
主人公は、後に天下の覇権を握ることになる、春秋の名君、晋の文公こと「重耳」。
この人、なかなかの苦労人です。君主になったのは62歳の時。それまで19年にも及ぶ亡命生活をしていました。
果たして、重耳とはどのような人物か。そして、重耳はどのようにして天下の覇者になったのか。
宮城谷昌光さんが描く春秋名君の物語、壮大なスケールで描く長編時代小説です。
■あらすじ
ときは中国春秋時代。
黄河中流域を治める晋は王位継承をめぐる内紛がぼっ発。
太子の異母兄・申生は自殺に追いやられ、異母弟・夷吾は他国に亡命しました。
重耳にも刺客が送り込まれますが、すんでのところで難を逃れ、母の生国・白狄に亡命します。
このとき重耳は43歳。ここから19年に及ぶ亡命生活が始まります。
白狄から衛、斉、曹、鄭、楚、秦…。広い中国をほぼ一周、その軌跡は1万里にも及びました。
途中、何度もくじけそうになりますが、狐偃、趙衰ら家臣たちに支えられて志を保ちます。
晋からの刺客に狙われたときも、忠臣・介子推に助けられ、命をつなぎました。
そして迎えた紀元前637年、重耳はついに晋の君主の座につきます。
このとき晋の文公こと重耳は62歳。ここから晋が中国に覇権を轟かせる快進撃が始まるのでした…。
■重耳
中国春秋の名君に挙げられる晋の文公・重耳。
後の劉邦や三国志の劉備も手本にしたとされる人物です。
でも知らなかったなぁ…。
「孟嘗君」もそうだったけど、中国は広い。歴史も深い。名君・英傑がたくさんいるんですよね。
たしかに、「三国志」とか「キングダム」とか、人物の宝庫ですもんね。
だからこそ、こうして宮城谷さんのような人が、私たちの知らない魅力的な人物を描いてくれるのはとても嬉しい。
今回取り上げた晋の文公・重耳ですが、なんとも苦労の多い人です。
何しろ、父から命を狙われて亡命19年、君主になったのは62歳というから、広い中国史のなかでも異例。
君主の座にいた9年の間に、周王朝を援け、諸侯と会盟して大国・楚を打ち破るなど、覇業を成し遂げました。
この9年間の輝かしい成果とは相反するように、19年の亡命生活はつらく苦しいものでした。
宮城谷さんの小説「重耳」は大部分を、この逃避行を含む苦しい前半生に焦点を当てています。
決して重耳は、スーパーヒーローではないんですね。
ときに挫け、ときに諦め、ときに自暴自棄に陥ったりします。
斉で厚遇を受けると、君主になることを諦めて、斉に骨をうずめることを宣言したりします。
そんな重耳を叱咤激励するのが、長年彼を支えてきた家臣たちです。
狐偃、狐毛、趙衰、先軫、魏犨、介子推…。いずれも勇敢で主君のためなら自己犠牲を厭いません。
特に、介子推の働きは焦眉です。刺客の閹楚と幾度も戦い重耳を守り切りました。
しかし、その忠義の強さが悲劇を生みます…。これは涙もの。
宮城谷さんは、彼を主人公にした小説「介子推」も書いています。「重耳」では書き足りなかったのかもしれないですね。
このように、一見すると冴えないながらも、家臣たちに支えられて覇者の地位に上りつめる重耳。
彼の何がそれを成し遂げたのかというと、たぶん「徳」なのではないでしょうか。
人としての魅力。人物の器の大きさ。情愛の深さ…。
天性のものもあったでしょうし、不遇の亡命生活で培われたものもあったと思います。
側にいる者が援けたくなるような何か、この人のためなら命も惜しくないと思わせるもの。
そんな魅力、いわば「徳」が重耳を君主にしたと言っても言い過ぎではないでしょう。
これ、上に立つものに必要な素養ですよね。
そういえば、重耳を手本にした劉邦も劉備も似たような人物。
ちなみに、宮城谷さんの描く「劉邦」も「三国志」も上梓されています。こちらもいつか紹介できたらいいですね。
ありがとう、重耳! ありがとう、宮城谷さん!